「腸内」「膣内」「口内」フローラとフランス人の対処法
この記事の目次
(リード)
私たちの体内には、数えきれないほどの細菌が常在しており、それらが作用し合って体調に影響を与えています。その細菌は種類ごとにまとまっており、その様子をお花畑に例え、「フローラ」という呼称がつけられました。「フローラ」の様相は人によって多種多様で、誰一人として同じ「フローラ」を持っている人はいません。
今回は、「腸内フローラ」、「膣内フローラ」、「口内フローラ」にフォーカスします。また、特に膣内ケアが充実しているフランスの「フローラ」対処法についてもご紹介します。
腸内フローラの特徴とその対処法
腸内には、体内で最も多くの細菌が常在しており、その数は100兆にものぼると言われています。その細菌は、体に良い働きをする「善玉菌」、有害物質をつくる「悪玉菌」、体調が崩れると「悪玉菌」に成り得る「日和見菌」の三種類に分類されています。この三種の菌の理想的な比率は、「2:1:7」と言われており、食習慣の乱れ、ストレスなどが原因で崩れやすくもなっています。
腸内フローラの乱れはあらゆる病気のもとになり得る
腸内フローラは、消化機能に役立つのみならず、免疫機能を刺激したり、体重を一定に保ったり、また、脳とコミュニケーションをとる役割をも果たしています。人間の身体の免疫細胞の60−70%が腸内に集中しているため、腸内フローラの環境が乱れると、糖尿病や肥満、炎症性腸疾患、メタボリックシンドローム、アレルギーなどの原因をつくり出すことがあります。
腸内フローラの状態を知るには?
腸内フローラが良好に保たれているかどうか知るには、便秘、下痢、胃腸炎、アレルギー、膀胱炎などの症状の有無によって分かります。これらのサインがあったら、それは腸内フローラのバランスが崩れているということです。
対処法としては、食生活を見直し、ヨーグルトや味噌、ケフィアなどの発酵食品を摂取し、腸内フローラを再構築することです。
腸内フローラを改善する3つのポイント
毎日の食生活や習慣を見直すことによって、腸内フローラを良好に保つことができると言われています。ここでは、3つのポイントをご紹介します。
1.食物繊維を毎日摂る
現代の食べ物は、糖分、脂質、プロテインなどが豊富に含まれていますが、腸内フローラの環境には食物繊維が適しています。食物繊維は、野菜、果物、枝豆やインゲンなどの豆科植物、アーモンドやクルミ、ドライフルーツなどから摂取できます。
食物繊維には、水溶性食物繊維(にんにく、ごぼう、納豆、オクラ、さつまいも、にんじん)と不溶性食物繊維(インゲン、おから、エンドウ豆、くり、納豆、きのこ)があり、体内には吸収されず体外へと出て行く性質を持ち合わせています。前者は水に溶けるとゼリー状になるため、コレステロールを絡めるようにして体外に出す役割を果たします。このため、高血圧、糖尿病などを予防してくれるのです。
一方、不溶性植物繊維は水に溶けにくく、水分を吸収して便のカサを増やし、大腸を刺激してくれます。また、有害物質を一緒に体外へ排出することで、大腸ガンの予防にも役立ちます。
2.赤身の肉の量を制限する
赤身の肉は、脂質酸化によって、結腸ガンのリスクを高めるとも言われています。フランスの研究によると、腸内フローラはこの脂質酸化に好条件だということも分かっています。赤身の肉が大好物でも、摂取する間隔を空けるなど、注意が必要です。
3.抗生物質の摂り過ぎに注意する
抗生物質は、体に有害な細菌を破壊すると同時に、「良い」菌までも破壊してしまい、腸内フローラのバランスを崩してしまいます。フランスでは、これを問題視し、すぐに抗生物質を処方しない医師が多く存在します。
病院に行くと必ず抗生物質を処方されるという人は、事前に、他の手段があるかどうか相談してみましょう。
膣内フローラの特徴とその対処法
膣内にも、腸内と同様に「善玉菌」、「悪玉菌」、「日和見菌」からなる「膣内フローラ」が存在しています。膣内フローラは、病原体が体内に侵入するのを防ぐ役割を果たし、真菌症や感染症などから守ってくれます。
膣内の菌の中には、デーデルライン桿菌もしくは乳酸桿菌(にゅうさんかんきん)と呼ばれるものがあります。その数は、1ml中、1千万にものぼると言われており、乳酸をつくり出すことで膣内の環境を守っています。この時の膣内のPH値は、3,8〜4,5に保たれており、これが膣内フローラの環境に良いとされています。
どんな時に膣内フローラは乱れる?
ストレス、抗生物質の摂取、また膣内の不衛生などにより、膣内フローラの環境は乱れ始めます。すると、嫌気性細菌、ガードネレラ菌、マイコプラズマなどの菌が増殖し、病原体と化していきます。中には、膀胱炎の原因をつくる菌もあるので注意が必要です。
おりもので膣内フローラの状況が分かる
おりものの色、匂い、形状がいつもと違うと思ったら、それは膣内フローラが乱れている証拠です。以下のサインが出たら、産婦人科を受診することをお勧めします。
・魚の腐ったようなニオイがする
・おりものの色が緑色っぽい
・水っぽい
・泡立っている
これらのサインは、細菌性膣炎や膣トリコモナス症の可能性を示しています。放っておくと悪化してしまうので、直ちにケアすることが大切です。
膣内フローラを良好に保つためにできること
膣内フローラを良好に保つためには、「善玉菌」と「悪玉菌」とのバランスが維持されなければなりません。本来膣内に存在する「善玉菌」は、膣内のPH値を一定に保つのに必要な乳酸を生成したり、細菌とたたかうための過酸化水素をつくり出しています。一方で、「悪玉菌」は膣内のPH値が乱れ出すと増え始めます。
フランスでは、女性専用の陰部を清潔に保つ洗浄ジェルが習慣づけられており、子供のいる家庭では、子供用の洗浄ジェルも常備してあります。膣内フローラを良好に保つためには、この専用ジェルで毎日洗うことがすすめられています。使い方は以下の通りです。
・専用洗浄ジェルを手にとり、膣内には入れないようにしながら陰部を洗います。
・ジェルはPHが最適で、無香のものを使います。香りがいいものは、かゆみや荒れを引き起こし、細菌を発達させる原因になります。
・洗い過ぎは厳禁。使用頻度は、1日朝夜の計2回までです。
また、以下のことにも気をつけていれば、膣内フローラを良好に保つことができます。
・ピタッとしすぎる下着、ストッキング、パンツは、通気性を悪くし、こすりつけられることで雑菌を繁殖させてしまいます。
・膣内にシャワーをあてて洗うと、膣内フローラにとって強すぎ、バクテリアを繁殖させることになります。膣は自力洗浄作用があるため、シャワーを内側にあてるのは避けましょう。
・濡れた下着は、雑菌が繁殖する好条件となります。少しでも濡れたら履きかえます。
口内フローラの特徴とその対処法
口の中には数千万ものフローラが存在し、その種類は700以上にものぼると言われています。口腔内のフローラの性質は、歯肉縁上と歯肉縁下のものとに分かれています。前者は歯の表面で作られ、唾液や食べ物を原因とするのに対し、後者には特に歯周病菌が多く見られるといいます。
虫歯や口内炎ができる原因とは?
口内フローラは、他の器官と同じように、「善玉菌」、「悪玉菌」、「日和見菌」の三種類に分かれています。これらはバランスを保ちながら、歯や歯茎粘膜を守り、微妙なさじ加減で口腔内のバランスを保っています。一方、そのバランスが崩れると、虫歯や口内炎、歯周病などを引き起こします。特に、歯周病菌はニオイを発し、口臭となってしまうのです。
また、口内フローラは、口腔内の環境のみならず、身体全体の健康にも関わると言われています。歯周病菌を放っておくと血管へ入り込み、心臓病を引き起こすことも報告されています。口はいろいろなものが入りやすいところなので、これら口内フローラの環境の悪化は、病気のもとにもなってしまうのです。
喫煙者と非喫煙者の口内フローラの違い
喫煙者の口内フローラは乱れやすいとも言われています。オハイオ州立大学の研究によれば、喫煙者の口腔内では、「善玉菌」は病原菌によってより消滅させられやすい傾向にあるといいます。また、喫煙者の口腔内には、炎症を起こす原因となる箇所が、非喫煙者よりも多く存在することが分かっています。そのため、喫煙者は非喫煙者に比べると、歯周病になるリスクが4倍になると言われています。さらに、口腔癌のリスクも上がるため、注意が必要です。
昔喫煙していた人は、非喫煙者の口内フローラ環境に時間をかけて戻っていくそうです。このため、喫煙をやめることで、これらのトラブルを避けることは可能です。
口内フローラの環境を良好に保つには?
食後に欠かさず歯みがきをしても、さらに洗口液で口をすすいでも、口腔の細菌はすぐに繁殖してしまいます。歯みがきできれいになる部分は、歯の表面の60%程度に過ぎず、口全体で見ると10%程度に過ぎないと言われています。
フランスでは、一年に最低4回は歯ブラシを変えることが歯科医によって勧められていますが、実際は一年に平均1,5本しか使用されていないという統計がでています。歯ブラシは、何回か使用していくうちに、細菌を繁殖させる絶好の土壌に成り得るため、定期的に新しいものに取り替えることが大切です。
また、歯を磨く時間は最低2分間が推奨されているのに対し、多くのフランス人は約56秒しか洗わないのだそうです。さらに、1年に1度は歯医者へ行き、定期検診をすることも口内フローラを良好に保つ秘訣ですが、40%のフランス人はこれをしていないといいます。
この定期検診では特に、歯周病菌がこびりついたプラークや歯石などを除去することが大切です。こうすることで、口内フローラの環境をより良く保つことができます。
まとめ
腸内、膣内、そして口の中が健康かどうかは、そのフローラが良好に保たれているかどうかに深く関わっていることを紹介しました。日本とフランス、国が異なればそのケア用品の種類も変わりますが、根本的なケアの内容に違いはないようです。自身の体内フローラを良好に保つために、これらの対処法を実践してみましょう。
– – – – – – 監修医師 相澤宏樹