クローン病の寛解期に取るべき食事のアイデア
- クローン病
- 2019.04.12
この記事の目次
【寛解期の食事はとても大切】
クローン病の症状である、腹痛や下痢、血便等の排便時の異常や
発熱症状は、寛解期に入ると弱くなります。
適切な食事を摂る事によって、この寛解の状態を出来る限り長期的に保ち、再燃を防ぐ事がクローン病を悪化させない為にも不可欠と
なります。
食事をきっかけに悪化することがある
クローン病の症状を悪化させるような危険因子についての調査は、
現在 世界中の研究者が取り組んでおり、食事内容を調整する事によって症状を改善しようとする、いわゆる「食事療法」についてもその研究が着々と進んでいます。
食事との因果関係について示す研究は、日本だけでなく海外にも多く存在します。しかし、食事療法と一口に言っても患者ごとにその症状は千差万別であり、また その時々の症状によっても食事内容は変えていく必要があります。また、小腸や大腸の手術後では切除した範囲によって食事内容を調整する事があります。
健康食品や、栄養補助食品の摂取による病状への影響は明らかにされてはいませんが、後述するサプリメントの中にも有効に作用している
ものが出てきています。
また、日本国内で行われている研究によれば、脂肪を多く含む食物の
摂取は、最もクローン病の症状が悪化する危険因子であるという報告があります。
再燃の原因になる「脂質」と「食物繊維」
先の項でも述べたように、寛解期だからと油断して 脂肪を多く含む食物を摂取する事は、症状を悪化させ再燃させてしまう危険がありますので避けるべきです。関連して、油を多量に使用して調理するものや、多脂性食品(例えばスナック菓子やラーメン等)もできる限り摂取
しない事が望ましいとされています。
n-3系の油は抗炎症作用が期待されていますが、薬物療法のように炎症を強力に抑制する効果はありませんので摂取量には注意が必要です。
食物繊維は、脂肪と同様に腸管を刺激してしまい、腹痛・下痢を引き起こす恐れがあるうえに、腸閉塞の危険もある為、摂取は控えた方が賢明です。代表的なものと
しては、こんにゃく・ごぼう・きのこ類やたけのこ・レンコン等が該当します。
また、これとは別に、ペクチンという水溶性の食物繊維を含むリンゴやバナナ、桃の缶詰等には腸管への刺激が少なく、下痢を軽減する効果が期待できる為、食事療法に取り入れられる事があります。
脂肪は腸管の働きを刺激する
脂肪を摂取する事で、腸管の蠕動運動を亢進する為、下痢を引き起こしやすくなります。
クローン病では、様々な原因によって栄養状態が悪化しますが、まず消化管に炎症がある場合では、脂肪や糖質(砂糖など)を多く含む食事を避ける事が大切です。これにより、炎症の引き金となる物質の摂取を減らす事につながり、腸の安静を保つ事が出来ます。ただ、例外として脂肪摂取量の制限値以内までは摂っても問題ないと指示がある場合もあります。(脂肪の質、脂肪酸の指定がある場合もあります。)
1日の脂肪摂取量が30gを超えると、再燃率が約60%弱、40gを超えると、約65%にまで上昇するという報告があります。
カプサイシンや炭酸などの刺激物も控える
脂肪と同様に、様々な刺激物も症状を悪化させる可能性が高く、
控える必要があります。刺激物とは主に辛いものが挙げられます。
例えば、香辛料を使用するカレーやトウガラシ(カプサイシンを含む)、胡椒やわさび等もそうです。また、飲み物の中にも刺激の強い
ものがあり、炭酸飲料はもちろんカフェインを含むコーヒーや紅茶、
煎茶、ウーロン茶などもこれに該当します。
飲食物の温度にも注意し、特に冷たいものは避けるようにします。
これは、腸粘膜を刺激して下痢の誘発する原因になってしまううえ、
胃を含めた消化管全体の機能低下を招くことにもなります。
【腸管をあまり刺激しない食事】
魚類(特に白身魚)
寛解期において、魚類は基本的に注意が必要なものはありません。
カマボコ等の練り製品や魚卵類も特に問題ありませんが、着色料は
使っていないものか使用量が極力少ないものの方が無難です。
また、EPAやDHAを多く含む青魚(サバやアジ等)は、腸管病変部の炎症を抑える働きをするn-3系脂肪酸も多量に含んでいますので、 積極的に摂るようにします。体調があまり優れない時は、出来るだけ
加熱調理したものを食べるのが望ましいです。
缶詰類も、出来るだけ油分が少ないものを選ぶようにします。
甲殻類(イカ、エビ、カニ等)は消化が悪い為、摂取量は少なめに
します。貝類もあまり消化が良い方ではありませんので、これも控えめにします。(但しカキは比較的消化が良いです。)
水溶性食物繊維(りんごなど)
水溶性食物繊維は、ペクチンおよび海藻類に含まれるアルギン酸があり、リンゴやバナナ、桃の缶詰等が該当します。
上記の果物類は、おやつとして食べたり、症状やその病気の状態によってですがヨーグルトと一緒にミキサーにかけて、ジュースに加工して飲んだりします。また、コンスタントにアルギン酸を摂取する方法と
して、昆布のだし汁で煮物や汁物を調理します。
とりむね肉(皮は無し)
とりむね肉は、皮の部分や脂肪を取り除く事により、脂質を大幅に
カットできます。但し、摂取量は少なめにします。
豆腐類
豆腐は植物性たんぱく質が豊富で、消化吸収も良い食べ物です。
油揚げにする場合は熱湯で油をしっかり抜くようにします。また、
おからは不溶性食物繊維が多い為、狭窄のある場合は避けた方が無難
です。
繊維の柔らかい野菜
比較的、不溶性食物繊維の少ない種類の野菜には大根やキャベツ、ニンジンがあり、これらを用いる時は繊維をさらに細かく砕いたり、
あるいはしっかり煮込んだりして、柔らかく加工する事により食べる事が可能です。刺激が少ないといっても、体調が優れないときは繊維質が
負担になる事もありますので、その間は野菜ジュースで代用する事も
可能です。
【刺激に負けない整った腸を作る食事】
食事は時間をゆっくりとって、よく咀嚼する事を意識します。
これは、もちろんクローン病だけに限った事ではありませんが、食事の開始時間も規則正しくコントロールし、夜更かしはやめて十分な睡眠を摂る事が大切です。夜更かしは夜食を摂る悪習慣を生み出しやすく、
胃腸に更なる負担をかける事となってしまいます。
クローン病と乳酸菌
クローン病は、従来は自己免疫的な機序の疾患と考えられてきましたが、最近の研究では、その炎症の原因は腸内細菌によって引き起こされていると
いう事が分かってきました。この腸内細菌の環境を改善するといった点で、乳酸菌の有用性が注目されるようになりました。実際に、抗炎症性サイトカインを分泌する乳酸菌が腸炎発症を予防し、発症後の腸炎を
改善する事が報告されています。
しかし乳酸菌を含む乳製品のカルシウムは、吸収効率は良いですが、乳糖や脂肪分で下痢を引き起こす可能性がある事から、現在の食事療法に取り入れる際はいまだ慎重にすべきです。また、乳製品を受け付けない患者の場合では、大豆製品や海藻類(わかめ等)の柔らかい部分を使って佃煮が代用されています。
クローン病とビフィズス菌
乳酸菌の一つである腸内ビフィズス菌には、産出する乳酸や酢酸に
よって有害菌の増殖を抑制する働きがあり、それによって有害菌が産出するアミンやフェノール類等の有害物質を抑えてくれるのです。
さらに、腹部の膨満感や下痢症状の改善につながります。また、
ビタミンB群やビタミンKを合成し貧血の予防や肌荒れ防止にも有効とされています。ビフィズス菌入りのヨーグルトはこのようにメリットも大きい為、症状に応じて食事療法に取り入れたい食品の一つです。
腸内フローラとは?
フローラとは英語で「花畑」を意味しています。腸内には実に1000種類以上の細菌が、100兆個以上も生息していると言われており、
これらを顕微鏡で覗いた時に「花畑」に見える事から腸内フローラ
(または腸内細菌叢)と呼ばれています。
腸内フローラを構成する細菌は、大きく3種類に分類されます。
●善玉菌
悪玉菌の侵入を防いでくれます。また、侵入した悪玉菌の増殖を
抑制します。腸の蠕動運動を促進します。
代表的なものとして、ビフィズス菌、乳酸桿菌、アシドフィルス菌等があります。
●悪玉菌
腸内を腐敗させる有毒物質をつくりだす菌です。
代表的なものとしてブドウ球菌やウェルシュ菌等があります。
●日和見菌
普段は特に害悪はありませんが、体調を崩した時に腸内に悪影響を
及ぼす細菌です。主に(非病原性)大腸菌やバクテロイデス等があります。
乳製品の摂取は、人によっては逆効果かも。
腸内フローラのバランスを改善する事によって、宿主に有益な作用をもたらす微生物を「プロバイオティクス」と呼び、乳酸菌もその代表的なものですが、腸内で効果的に善玉菌が増殖できるようオリゴ糖等の
添加物を加工したりします。しかし、腸内細菌との相性や手術の有無、体の状態や症状の具合によっては腹痛や下痢を引き起こす事もありますので、その場合は乳製品の摂取を中断し、栄養士の方の指示を仰ぐようにしましょう。
【乳酸菌サプリで腸内フローラを整える】
乳酸菌サプリの選び方
乳酸菌は、酸やアルカリに弱い為、胃酸や胆汁等によって腸に届く
までにほとんどが死滅してしまいます。この為、乳酸菌を生きたまま
腸に届くよう、カプセル状にしたサプリがあります。また、いろいろな
乳製品を試したが体質上の問題で相性が良くなかった等の場合でも
サプリを試したところ、問題なかったという事もあります。
乳酸菌は、その種類によってどの部位に届くかというのが決まっていますので、乳酸菌の種類を多く含むサプリを摂取する方がメリットが
大きくなります。
次の項では、具体的にどのような効果をもつ乳酸菌があるのかを
ご紹介します。
株によって効果が違う?
乳酸菌の株と一口に言っても、様々な種類が培養されており その効果は千差万別です。
例えば、クレモリス菌FC株というカスピ海ヨーグルト由来の乳酸菌には便秘やアトピー等に効果があると言われています。腸内の
ビフィズス菌の増殖を促進し、大腸菌群を減少させる働きをする
シロタ株等は耳にした事があるかもしれません。
一般的によく知られている善玉菌を以下にピックアップしておきます。
●LG21乳酸菌
胃の中のピロリ菌の増殖を抑制する。
●ビフィズス菌BB536株
病原性大腸菌O-157、インフルエンザの予防。アレルギー症状を
和らげる。
●R-1乳酸菌
風邪の予防
●ガセリ菌SP株
コレステロールや内臓脂肪の低減。また、血糖値の上昇を抑える。
●ラブレ乳酸菌
更年期症状を緩和する。
この他にも様々な効果を持つ乳酸菌株が存在します。
寛解期を伸ばすためのサプリ
サプリメントから摂る乳酸菌は、腸内に定着しません。
あくまでも腸内常在菌の活性化を促進する働きはしますが一過性のものです。どんなに効果を発揮する乳酸菌サプリも、継続しなければ意味がありません。また、摂取し始めてからある程度の期間を経過しないと
効果が発現しないものもありますので、毎日摂取する必要があります。
そしてこれも重要な事ですが、サプリメントだけに頼らず、再燃を
予防する為の薬物療法も必ず併せて行うようにし、寛解期を出来るだけ長期的に維持させる事が大切です。
【まとめ】
クローン病は、全ての消化管に生じる原因不明の炎症を主体とした病気です。
世界中の臨床医や研究者が注目し、この病気に対して多くの治療薬が
開発され、実際に多くの方が使用できるようになりました。これは
大変喜ばしい事ですが、様々な治療方法が可能になった結果、その治療方法の組立て方や進め方が非常に複雑化し、専門的な知識がなければ
この病気について正しく理解する事が難しくなりました。そして
いまだに治療法が確実に有効なものであるという確証もありませんし、今回のテーマである寛解期をどう維持するかについても同様です。
クローン病は、一度症状が軽減したとしても再燃しやすい病気で
あり、寛解維持療法を行ったとしても、再燃を確実に抑える事は非常に難しいのです。そして再燃した場合には、絶食を含めた治療(寛解
導入法)が必要になることが多くなります。これは患者にとって、肉体的・精神的にも大変苦痛を伴いますし、再燃を繰り返す事は腸内だけでなく他の膀胱や肛門といった部位もさらに症状を悪化させてしまいます。
寛解を維持するのに最も適した方法というのは一人一人異なりますし、またいつ再燃するか分からないという不安は決して簡単に拭える
ものではありませんが、乳酸菌摂取による腸内環境の改善や食事
療法は、再燃の抑止に効果的に作用する実績を蓄積してきています。
寛解が出来るだけ長期的に維持できれば、クローン病の研究は今 この瞬間も先進国を中心に継続して行われており、今後 さらに期待できる
治療法を見つけられる可能性を秘めています。