腸内フローラについて現役医師が研究の最前線を解説

腸内フローラとは:善玉菌と悪玉菌?デブ菌とヤセ菌?

腸内フローラという言葉、最近よく耳にしませんか?10年ほど前から徐々に話題になってきている感もありますが、健康に関係しているだけではなく美容にも関わっているということで興味をお持ちの方も多いことでしょう。特にやせる効果(痩身効果、いわゆるダイエットとしてデブ菌・ヤセ菌等といった言葉も出てきました)が腸内フローラを変化させることによってもたらされるのではないかという可能性が示されたところ、ある種の流行のようになったことも記憶に新しいところです。

腸内フローラ、なかなか華々しい言葉ですが、実は多数の腸内細菌が作るお花畑のような密集状態のことを指します。フローラというのはお花畑を意味していて、腸内を顕微鏡で見た時に繁殖している細菌(体に悪影響のないとされる菌がほとんどです)があたかもお花畑のように見えたことから名づけられています(以前の分類ですと細菌は植物界に分類されていたのでお花畑が連想されたといういきさつもあります)。つまり細菌の草原のようなもので、日本語訳は腸内細菌叢(叢は草むらのことです)とこちらは比較的まじめな名前がついています。どちらにしても意味としては腸内に定着している多数の細菌群を含めた微生物群のことを指すと考えれば概ねイメージはつかめるかと思います。

腸内にいる細菌(厳密には細菌の破片も含みます)の数はなんと大腸の中だけでも80兆個以上といわれており、私たちの体の細胞の数が50兆個弱に過ぎないことを考えると、自分の身体を構成している細胞よりも腸内にいる細菌の数の方が多いということになります。何だか不思議なような気味の悪いような話でもあります。しかもその膨大な数の細菌からなる腸内フローラと私たちの健康は密接に関係していて、もはやフローラ自体を1つの臓器として捕らえて考えるべきではないかとまで言う研究者もいます。Lederbergという高名な研究者の先生は、私たちの体をヒトと細菌からなる超生命体(superorganism)と呼んだほどです。新たな臓器としての腸内フローラ、興味がわいてきませんか?もう少し腸内フローラについて説明を加えていきます。

腸内フローラの無数の細菌の中には、ビフィズス菌や乳酸菌など耳になじみのものも含まれます。

学術的に言うと99%以上がフィルミクテス(ファーミキューテス)、バクテロイデス、アクチノバクテリア、プロテオバクテリアの4つの門(大まかな生物学上の分類のことです。)に属しているとされます。大腸菌等はむしろ少数で、まだ確認されていない細菌も多いことから、現在に至っても腸内フローラの全体像が必ずしも明らかになったとはいえない状況ではあります。そもそも、菌の分離培養で同定できる腸内フローラの細菌は、現在の技術をもってしてもフローラ内の2割以下ではないかとも言われているほどです。では現在どのような方法で腸内フローラの解析をしているのかというと、細菌のもつ遺伝情報(遺伝子部分を含みます)の配列をシークエンシングという手法で1つずつ読み込んでいくことで細菌を同定しています。細菌の遺伝情報は私たち人類より少ないとはいえ、全部を読み込むのはコストと時間がかかってしまうので、細菌に関しては16SrRNAと呼ばれる配列を読み込んで同定する方法が一般的です。アデニン(A)、チミン(T)およびウラシル(U)、グアニン(G)、シトシン(C)の配列を一気に読み込むのはほんの10年前までは相当コストがかかったのですが(筆者が遺伝子の研究をしていたころは本当に高価で、仕方なく自分たちでやろうとすると試薬が安いせいかうまくいかなくて枕を涙で濡らしたものでした)、技術の進歩と一般化によって急激に値段がさがり、その恩恵を受けて全世界の研究者たちによって腸内にいる細菌の解析が爆発的に進んだというのが近年の状況です。

学術的に言うと99%以上がフィルミクテス(ファーミキューテス)、バクテロイデス、アクチノバクテリア、プロテオバクテリアの4つの門(大まかな生物学上の分類のことです。)に属しているとされます。大腸菌等はむしろ少数で、まだ確認されていない細菌も多いことから、現在に至っても腸内フローラの全体像が必ずしも明らかになったとはいえない状況ではあります。そもそも、菌の分離培養で同定できる腸内フローラの細菌は、現在の技術をもってしてもフローラ内の2割以下ではないかとも言われているほどです。では現在どのような方法で腸内フローラの解析をしているのかというと、細菌のもつ遺伝情報(遺伝子部分を含みます)の配列をシークエンシングという手法で1つずつ読み込んでいくことで細菌を同定しています。細菌の遺伝情報は私たち人類より少ないとはいえ、全部を読み込むのはコストと時間がかかってしまうので、細菌に関しては16SrRNAと呼ばれる配列を読み込んで同定する方法が一般的です。アデニン(A)、チミン(T)およびウラシル(U)、グアニン(G)、シトシン(C)の配列を一気に読み込むのはほんの10年前までは相当コストがかかったのですが(筆者が遺伝子の研究をしていたころは本当に高価で、仕方なく自分たちでやろうとすると試薬が安いせいかうまくいかなくて枕を涙で濡らしたものでした)、技術の進歩と一般化によって急激に値段がさがり、その恩恵を受けて全世界の研究者たちによって腸内にいる細菌の解析が爆発的に進んだというのが近年の状況です。

昔から腸内細菌は「善玉菌、悪玉菌(場合によっては日和見菌も加わります)」という括り方で語られることが多かったのですが、解析が進むにつれて悪玉菌が腸内フローラにおいて重要な役割を果たしていることなどもわかってきました。単純に善玉悪玉で割り切れるものではないらしいことがわかってきたのと同時に、日和見菌が状況によっては(体力の低下など)悪玉菌のような働きをする、というように立場が入れ替わったりすることもわかってきました。また、近頃は「デブ菌、ヤセ菌」と言うあまりにもストレートながらもわかりやすい言い回しがダイエット業界を中心に市民権を得つつありますが、これら善玉菌やデブ菌はクロスオーバーしつつ、時に立場を変えながら腸内フローラは複雑なネットワークを形成していることが判明してきました。時には悪玉菌が善玉菌のような働きをしたり、日和見菌が悪玉菌のような働きをしたり、デブ菌のグループのはずの細菌がヤセ菌だったり、頭の中で混乱するような事実もありますが、それだけ複雑なネットワークを構築しているということと考えるべきだと思われます。

また、お読みになっている方の中には腸内には細菌しかいないのか、という疑問をお持ちになる方もいるかもしれません。実は真菌(カビなどを含みます)やその他の微生物(近年は減ってきたものの寄生虫や、ウイルスなどの微生物)も存在することが明らかになってきています。しかし寄生虫は日本においてはだいぶ減ってきていますし、ウイルスの解析は細菌と比べてもさらにコストと手間と工夫が必要であることから、研究はなかなか進んでいないのが実情です。ここでは腸内フローラの中でも腸内細菌をメインにしてお話をしていきたいと思います。

そもそも私たちの腸内に細菌がいるということが明らかになったのは1885年の大腸菌の発見に始まります(初めてみつかった菌なので「大腸菌」という名誉ある名前になっていますが、上記の通り腸内ではごく少数派です)。1899年にビフィズス菌が発見され、そのほかの菌も次々に発見されていくのですが、いずれにせよ腸内フローラというか腸内細菌自体が発見されてからまだ100ちょっとというわずかな時間しかたっていないのです。全容が明らかになってこないのも無理もないことかもしれません。まだ私たちは腸内フローラを理解する入り口から少し入った段階なのかもしれないのです。

人類の文明は常に細菌と共にあったのですが、それは主に発酵という目に見えるかたちで関係してきました。紀元前3000年ごろのメソポタミアではビール醸造が盛んであったことが知られていますし、古代エジプトでは発酵を利用してパンやワインを作っていたことが壁画などに残されています。中世では家畜の胃袋にミルクを貯蔵することによって偶然チーズが誕生し、発酵(と腐敗)は常に人類に恩恵(と食あたり、時に死)をもたらしてきました。

顕微鏡が発明されて、19世紀になってようやくPasteurによって「発酵や腐敗は微生物による」という概念が定着しました。

同じく19世紀に腸内の細菌が上記の通り発見されました。当初はその働きに目が向くことは少なかったのですが、21世紀に入ってその重要性が特に一般に注目されるようになってきました。20世紀来の腸管感染症の研究から始まり、エネルギー産生との関連(ここでダイエットの話とつながります!)、感染症や肥満、自閉症などとの関連など、幅広い分野で腸内フローラが私たちの体と健康に影響を与えていることがわかってきました。

腸内フローラの働きが多岐に渡ることがわかってきたことから、さまざまな治療が考えられました。中でも後ほどお示しするように一部の腸炎に対する治療には大きく関わっていて革命的な治療となっています。しかし、中には医学的根拠に乏しい治療および美容健康法も開発されました。その中には有望な可能性をもつものもごく少数ありますが、残念ながら無意味なものが多いことは近年専門家が懸念しているところです。

その理由は単純明快です。「腸内フローラは個人差があるが、加齢による一般的な変化以外に関しては、離乳期に完成した腸内フローラが生涯ほとんど変化しない。また、変化させることは困難である。」という当たり前のような、しかしあまり知られていない事実があるからです。これは、同じ人から時間をおいて何度かとった便を分析してもほとんど似ている(厳密には「まとまったクラスターを形成する」)ことと、別の人から得られたフローラを分析したものとは独立したクラスターになることから立証されています。また、食事内容を完全に同じにしても別人のフローラは同じクラスターにならない(つまり食事内容によって腸内フローラが構成されるわけではない)ということもわかっています。ただし、個人の腸内フローラは抗菌薬の投与やストレスによって一時的に、もしくは一定期間にわたってかく乱されることはわかっています。

よって、「宿便をとれば健康になる」などと言って温水を多少腸内に流し込むようなことでは、便秘にこそ効果があっても腸内フローラを変えるわけではないので数日経過すればまた元通りの腸内環境になるわけです(念のため言っておきますが便秘に関しては有用だと考えますので特定の医療行為・美容健康の施術について批判しているわけではありません)。

ただ、「このサプリメントを摂取すると腸内フローラが変わってみるみるうちに痩せますよ」とまで話が発展しますといかがなものかと思ってしまいます。腸内フローラの短鎖脂肪酸生成の作用に着目したのだと思われますが、腸内フローラが簡単に変化しない以上、理論的にはともかくとして実践としては難しかろうと考えます。いわゆるダイエットによる痩身効果には多くの需要があり、そこには科学的根拠の乏しい商品を私たちに売りつけようという人々がいます。是非このサイトで2018年末現在の最先端の腸内フローラの知見の現状を理解して、あやしげな商品を購入して後悔するようなことがないよう知識を蓄えておいてください。

後述しますが、腸内フローラは日本人に固有の特徴があり、そしてお母さんからの贈り物という側面があります。そんな腸内フローラを大事にして、栄養を与えて維持することで健康をも維持しながら、必要があれば最小限の補給や抗菌薬治療を行う、それが自分のおなかの腸内フローラ、お花畑をいたわるということではないでしょうか。

では、以下にお示しした9つの項目ごとに見てまいりましょう。順を追った方が理解しやすいと思いますが、興味のあるところからお読み頂いても大丈夫かと思います。

腸内フローラと健康:腸内細菌と肥満およびダイエット

総論でもふれたように、腸内フローラは私たちの栄養摂取に大きな影響をもっています。

これは人類に限らず哺乳類一般に言えることです。例えば、牧草ばかりを食べているウシのような草食動物が、どうやって必須アミノ酸(これらの多くはタンパク質を摂食して分解・吸収することがほとんどです)を摂取しているのか疑問に思ったことはないでしょうか?

あんなに草ばかり食べているのに、走ったり仔を産んだり闘牛のような激しい動きをできるのはなぜなのでしょうか?哺乳類は一般に高等な生物ほど似たような胃腸の仕組みを持っているはずなのに、どうしてこうも食べるものが違うのに生存していけるのでしょうか?

答えが腸内フローラにあります。ウシのような草食動物は特に長い腸管(小腸・大腸など)を持っており、その中には私たちヒトとも比べ物にならないほど大量の腸内細菌がいます。それらの腸内細菌が腸まで落ちてきた栄養源や食物繊維を取り込み分解することによって糖類などのエネルギーや短鎖脂肪酸などの栄養源、また必須アミノ酸・ビタミンB・ビタミンCなどの生命維持に必要な物質を産生し、腸管からとりこむことによって草食動物は生きながらえてきました。そのため、というか(原因か結果かという進化論の話になってきますが)ウシの腸はヒトと比べても数倍の長さを持っており、食物繊維などの栄養源を取り出すのに時間がかかる物質からも無駄なくエネルギーを取り出すことができます。

対して、ハイエナのような肉食、しかも腐りかけた肉を食べることもある肉食動物は、タンパク質からアミノ酸や栄養源を効率よくとることができ、腸は哺乳類の中で最も短くなっています。むしろ相対的に胃が発達していて、胃酸などで摂食した肉に付着していた腐敗菌(場合によっては命に関わります)などをしっかり殺菌することができるという特色があります。自然の合理性には驚くばかりです(合理的だから生き延びて今に至るのではないか、という進化論的なお話は別にします)。

では、私たち人類はどうかというと、草食動物と肉食動物の中間ぐらいの長さの腸管を持っています。計測の仕方にもよりますが、小腸が7mで大腸が約1mと言われています。ただ腸管は伸び縮みしますので伸ばせば10m以上、縮ませれば3mぐらいになるとも言われています。これは人種差や地域差はほとんど無いといわれています。

私たちは肉も食べれば野菜も食べる、というような食事スタイルをとっているわけですが、胃で腐敗菌などを殺菌し、腸で食物繊維から脂肪酸などの栄養源やビタミン類を取り込むということは等しく行っていかなければいけません。そのため、草食動物と肉食動物の中間的な特徴の消化管システムなのかもしれません。

私たち人類においても腸内フローラは様々な働きを持っていますが、「なぜ」人類、及び哺乳類に腸内フローラが存在するのかといえば、やはりおおもとは栄養吸収のためだったのだろうと思われます。はるか遠いご先祖様、それは今の私たちのような二足歩行をしていない、哺乳類自体の祖先(大型のネズミのような四足歩行の生物だったという説が有力です)ということになりますが、彼らはその時代には食物連鎖の中で弱い存在であったと推測されます。良質のタンパク質(大動物の肉など)や、糖分(果物など)といった良質の栄養源を優先的に確保できなかった彼らは、草や木の実などを食んで命をつないでいたと考えられます。それらから得られるエネルギーは非常に限定的で、特に食物繊維を消化する機能を哺乳類が持っていないことは痛手でした。

そこで、進化のどこかの時点で、哺乳類の祖先は腸内細菌という強力なパートナーを得たのだと考えられています。腸内細菌の一部は食物繊維を分解・代謝して短鎖脂肪酸やビタミンなどを産生します。これを腸管から吸収することによって、摂取エネルギーの吸収効率は格段にアップしたと考えられます。哺乳類が他の動物を駆逐して陸で繁栄できた一因かもしれません。

先ほどお示ししたように腸の長さは概ね人種差や地域差はありませんが、腸内フローラは地域によって差異があることが報告されています。地中海地方の穀物や果物などが古来豊富であったであろう地域の人々の腸内フローラと、アフリカ内陸部の乾燥地帯で食物不足と隣り合わせだった時代が長かった地域の人々の腸内フローラを比較した研究では、地中海の人々(研究ではイタリア人が選ばれました。美食のイメージも容易に想像できます)の腸内フローラにおいて著明にフィルミテクス門の、食物を分解してエネルギーや栄養に変える菌が多く、対照的にアフリカ内陸部の人々においてはバクテロイデス門の、糖を発酵させたり脂肪の取り込みを抑えたりする菌が多いという結果が示されています。長い時間をかけて、居住地域における食物摂取の環境に影響を受けた可能性が考えられます。アメリカからの報告では無菌状態のマウスに上記の地中海型のフローラを移植した群とアフリカ内陸部型のフローラを移植した群とに分けて同じ食事を与えたところ、地中海型のフローラを移植した群の体重がどんどん増えたという結果が得られました。

これはダイエットにつながりそうな話です。アフリカ内陸部型のバクテロイデス主体の腸内細菌を自分の腸内フローラに変えてしまえば、という考えが浮かびます。一般的な食生活をしている場合、食事をとって得られるカロリーのうち2割ほどが腸内フローラの関わっている部分と言われています。そこで、脂肪酸を産生する菌を大量に摂取して腸内フローラを介したエネルギー摂取を大幅に減らしてしまえば、労せずして食事量を2割減らしたのと同様の効果が得られるわけです。

残念ながらそのように話がうまくいくはずもなく、ヒトの腸内フローラは離乳期に完成してそこからほとんど変化させることができないことから、この方法は机上の空論であることがわかります。しかし、後にお示しするように、特定の菌を増やす方法のヒントとなるような技術も近年発見されており、ことによると医療利用につながる可能性があるのではないかとも考えられています。

更に、痩せている人の腸内フローラに多く存在する菌がピンポイントで発見されたことから、メカニズムはわかっていないものの、この菌を体内に入れて定着させることができれば痩せ効果が得られるのではないかという方法を含め現在研究がなされています(現在のところ効果的だという結果は出ていませんが)。

近年発見されたヤセ菌(不思議なことにフィルミテクス門に属しています)については別にしても、いわゆる従来言われていたヤセ菌であるバクテロイデス門の細菌群は食物繊維から短鎖脂肪酸をつくって、短鎖脂肪酸は脂肪細胞への脂肪の取り込みを抑えるという働きを持つことから太りにくい体質を作っている可能性が示唆されています。痩身効果だけではなく、肥満の治療やメタボリックシンドローム、ひいては糖尿病の予防にも利用できるのではないかということを含め、注目を集めています。

一般の方のいわゆるダイエットによる痩せを目標とするにあたって、短鎖脂肪酸は鍵になる可能性を持っています。短鎖脂肪酸(酪産、プロピオン酸、酢酸、イソ酢酸、コハク酸など)は経口摂取してもそのままの形で取り込まれることはなく、腸内細菌が水溶性食物繊維を発酵分解させることで作られますが、これはバクテロイデス門の細菌の働きによるところがほとんどです。

短鎖脂肪酸は腸内上皮細胞のエネルギー源として使われる以外にも、一部は血流にのって全身に運ばれます。酢酸やプロピオン酸は肝臓や筋肉、腎臓などで使われますし、脂肪を合成するなどの働きを含めさまざまなところで働きをしていることがわかっています。

また、ダイエットに関連して最も注目が集まっているのは脂肪細胞の受容体に作用してエネルギーの取り込みを阻害して太りにくくする働きです。それのみならず、酢酸は脳に届くと「食欲を抑える」刺激となって食べすぎを防ぐことができるとも言われています。

また、短鎖脂肪酸の一種である酪酸はアレルギーなどの免疫機能に深く関わっていて、外部からの刺激に対する過剰反応(つまりアレルギー反応)を抑制する「制御性T細胞」を増加させる作用があることが報告されています。実際マウスの実験で食物繊維を多くとることによって腸内細菌の働きが高まり、酪酸が増加して制御性T細胞への作用が確認されています(日本での研究です)。

これはダイエットについて私たちに1つのヒントを投げかけてくれています。腸内細菌を変えるのではなく、腸内細菌の「エサ」を変えてやればいいのではないか、ということです。より具体的に言えば、食物繊維(特に水溶性食物繊維)や、オリゴ糖をとることによってバクテロイデス(いわゆるヤセ菌です)を増やすことはできるはずです。

実は、といいますかお恥ずかしいのですが、筆者は今回のこの文章をしたためるにあたって、自分で人体実験と称して、この戦略(水溶性食物繊維とオリゴ糖を多めにとる)を中心にいくつかの手法を組み合わせてこっそり試したところ、十年前の体重までダイエットに成功しました(当然体質や個人差はあるので、万人にお勧めするわけではありません。念のため。科学者のはしくれとしてまず自分で試しているだけです)。組み合わせた手法は後々記していきますのでご参考になれば幸いです。ただ、色々文献を読んで考察していくにつれ、日本古来の発酵食品を用いたいわゆる和食的な食事が腸内フローラによい影響を与えるであろうという確信に近づいていったのは不思議でした。私たちの国の祖先は腸内環境について何か知ってでもいたのでしょうか?

いずれにせよ、痩身効果だけではなく、トータルの腸内フローラバランスとして、食物繊維とオリゴ糖を多めにとることが腸内フローラに良い影響を与えるということは間違いなさそうです。

腸内フローラはお母さんからの贈り物:日本人の腸内フローラは特別?

腸内フローラは不思議なことにお母さんと子供で似たようなフローラ構成になっていることがわかっています。世のお父さん方には残念かもしれませんがお父さんと子供のフローラは、似てはいるものの一致率は母子ほどではないとされています(そう思って筆者などが妻の実家に行くと、「この3人の腸内フローラは同じなんだなぁ」と義母と妻、長男の3人を感慨深く眺めるという変な心境に至ることになるわけです)。

母子の腸内フローラが似ている原因は、特に不思議なことでもなく一般に生後から離乳期にかけて母子の接触が濃厚で、特に母乳育児をしている場合には常に赤ちゃんの口から母親に付着している菌が入っていくからです。そのように口から入った細菌は、新生児が生後3日を迎えるころには腸内に乳児型ビフィズス菌が主体の腸内フローラを既に作り上げていることがわかっています。赤ちゃんがその後、ミルクだけではなくお母さんだけではなく、まわりの人々や生き物とのふれあいによって菌を獲得していってオリジナルの腸内フローラが既に離乳期には形成されるとされています(もちろんベースはお母さん由来の菌なのでオリジナルの腸内フローラといってもお母さんのものに良く似ています)。このフローラ形成の時期にどれだけ多くの菌種を体内に取り込んだかによってフローラの多様性、ひいては免疫系への影響が決まるということもあり、あまり清潔に(無菌状態に近い環境で?)育てるのは良くないのではないかというように考えている医師も少なくありません。実際、乳幼児期にペットと一緒に居住していた子供は、喘息やアトピー性皮膚炎になりにくいという報告もあり、これも腸内フローラが関わっている可能性もあるそうです。カナダからの報告では小児喘息は腸内細菌(フィーカリバクテリウム、ラクノスピラ、ベイロネラ、ロシアの4種)が関わっていると報告されています。今のところその仕組みについては不明ですが、多様な腸内細菌をもつことは一つ一つの菌の性質を減弱化させるような働きがあるらしく、なるべく離乳期までに多くの細菌と触れ合うことが良いとされています。対して、抗菌薬をこの時期までに使うと腸内フローラがかく乱される影響が残るのか、腸内フローラがやや種類に乏しくなったりバランスを欠いたりすることがあるようです。いずれにせよ、土の上を元気に駆け回ったり、動物と触れ合ったり、様々な体験が赤ちゃんを育てるだけではなく腸内フローラをも育てるということのようです。

少し話がそれますが、ペットとして人気を二分するイヌとネコについて腸内フローラが全く異なることが最近になってわかってきました。筆者もイヌを飼っているので何となくわかるのですが、イヌをお飼いの皆さま、イヌの便が私たち人間の便に似ていると思いませんか?実はイヌの腸内フローラは人類と比較的近いらしいのです。主体となる菌が乳酸桿菌(ヒトのフローラの常在菌です)であるという違いはあるものの、だいぶフローラの構成としては似ているという結果が得られています。それに比べて、ネコのフローラは人類とは全く異なるらしいと言われています。ネコの常在菌の大多数は腸球菌で、人類にとってはどちらかというと感染症を引き起こす可能性のある悪玉的要素をもった菌でした。

ネコ派の方は気を悪くしないで頂きたいのですが、この違いは人類とイヌ・ネコとの共同生活の文化史と関連があると思われます。人類は遥か昔、先史時代(1-5万年前とも言われています)からイヌの先祖となる動物を飼い慣らし、共に狩りをして一緒に寄り添って寝たりするなどの共同生活を送っていました。対して、ネコが人と共同生活をするようになったのは穀物を生産するようになってから(ネズミ対策のためとも言われています)、資料としては紀元前4000年のエジプトが最古といわれています。イヌの方が遥か昔から(ユーラシアオオカミがイヌの直接の祖先とわかっています)人類の祖先と共に暮らし、かつ密接に接していたことを腸内フローラが示していると言えそうです。

文化史は腸内フローラと密接な関わりを持っています。人類においても、世界中の人々の腸内フローラの特徴をもとに座標にプロットしていくと、日本人だけが独立した群れをつくることがわかっています。これは日本が島国で人的交流が少なかったこともありますが、独自の発酵文化と持っていることも影響しているのではないかと日本人研究者は考えています。確かに、毎日のように発酵食品である味噌で味噌汁を作って飲み、地域によっては納豆を食べ、豆由来の醤油や、魚由来の魚醤、漬物などの独自の発酵食品を高頻度でとっていることの影響は少なくないようです。また、日本人の群の中でも沖縄及び南西諸島の人々の腸内フローラの構成群は本州付近の人々とは少し離れており、独自の文化圏での歴史が長く、本州付近との交流がある時期まで乏しかったことを示唆していると言われています。確かに公的な交流は江戸時代末期の薩摩藩と琉球王朝との交流が初めといわれています(非公式な交流は遥か昔から続いていたでしょうけれども)ので、それが腸内フローラに現れていると考えると歴史の壮大さを感じます。もちろん彼の地は亜熱帯気候ですので、温暖湿潤気候との食物の相違は影響していると思われ、文化史だけで語るわけにはいかないですし様々な要素を考えながら分析しなければいけません。歴史の壮大さに酔っているだけではいけないのです。さて、現代の問題に戻りましょう。

腸内フローラのこのような類似性や相違がどのような要因からくるのか、大きく言えば遺伝なのか環境なのか、という議論が必要になってきます。このような場合、医学疫学研究ではいわゆる双生児研究を用います。つまり、双子(特に異なった環境で育った場合が望ましい)のうちでも、一卵性双生児と二卵性双生児の腸内フローラ一致率を比べることによって、一卵性双生児の方が二卵性双生児よりもフローラ構成の一致率が高ければ遺伝の影響があるということになります。他方、一卵性双生児も二卵性双生児も赤の他人もさほどかわりなければ、環境要因が多くの部分を占めるのだろうという結論を得ることができるわけです。

腸内フローラにおけるこの研究の結果ですが、少し従来の知見と合わない結果が出ました。理論上、母子で移行するフローラであれば環境要因が強いはずなのですが、赤の他人同士のペアより二卵性双生児で、そして二卵性双生児よりも一卵性双生児において腸内フローラの構成の一致率が高かったのです。しかも、次項でお話しする「ヤセ菌」であるクリステンセネラセエの有無が全体に影響していることもわかりました。

よって、かつては環境要因によって形成されると考えられていた腸内フローラについて、2018年の段階では、以下のような仕組みが考えられています。

「基本的には母から子へ、また周囲環境から腸内フローラは形成される。しかしその際に腸管内に発現するIgAという抗体の免疫機構が働いて定着する菌を選別し、クリステンセネラセエなど定着する細菌の比率も決まる。この細菌の比率によって腸内フローラ全体の構成が影響される。」

つまり環境要因も大きいが、遺伝要因も加わっているということが腸内フローラの研究結果でわかったのです。

「基本的には変わらない」といった個人の腸内フローラですが、年齢に応じた変化は誰にでも等しく起こるとされています。生後間もなく乳児型ビフィズス菌が腸内にフローラを形成した後には、成人型のビフィズス菌に変化していくことがわかっています。また、それと同時にバクテロイデスやユウバクテリウム、ウェルシュ菌なども徐々に増えてきます。壮年期を過ぎるとビフィズス菌などのいわゆる善玉菌は減ってきて、ウェルシュ菌などの悪玉菌が増えてくる傾向にあるとされています。

この自然の流れに抵抗することが果たして正しいのかどうかはわかりませんが、善玉菌を多く保っておくことが美容健康上のメリットがあることがいくつかの観察研究から明らかになっています。よってこの世に腸に届く○○という謳い文句の商品が氾濫するわけです。

実際に、腸への届きやすさというのは菌種によっても異なりますし、腸内にその菌が定着するかどうかは調べでもしない限りわからないので、善玉菌とされる乳酸菌やビフィズス菌をいくつか試してみることは有用だと思われます。がんや感染症で決定的に重要な働きをするNK細胞という細胞がありますが、これの活性を上げるという乳酸菌の菌種(株)がR-1やラブレ、もっと上流の免疫を活性化するというのがプラズマ株といわれ、いずれも商品化されています。

ちなみに筆者が試したのは家人が以前から食べていたビフィズス菌(マクロファージという免疫系の細胞を活性化するBb-12株でした)入りのヨーグルトと、R-1ヨーグルトでした。ラブレやプラズマ、その他にもカゼイシロタなども、ビフィズス菌も数種類、手に入りやすいものは一通り試しましたが、私の腸内細菌にあっていたのは上記のものだったようです。あっているかあっていないかを判定するのは簡単です。おなかの調子がよければよいのです、と言ってしまうと身もふたも無いので目安をお話しすると、もしその株があっていれば腸内で一定のボリュームを持つはずですので、便がよい感じ、黄色っぽい色でふんわりとした形のある便(これでもそれなりにあいまいな表現にしています)になってくるものと思われます。そのような便が出ている時はおなかの調子もよいはずですので、「これは効いているかな」と考えてよいのではないかと思います。

ただし、これで痩せるのか、など健康にどれだけ寄与するのかといわれると数値化するのが難しい現象であるだけにお示しすることはできません。ただ、お通じの調子がよくなるということを実感できることは確かのようですし、これまでお示ししてきたことやこれからお示しすることなどを総合すると、免疫系などによい影響を与えるであろうと想像されます。

免疫といえば、近年、世界中で抗生物質耐性菌による腸炎が猛威を奮っています。特に欧米で被害が深刻で、治療が効果をみせず生命に関わるばかりか、院内感染による発症が多いことから、倫理的な側面や、損害賠償という点からも問題になっているようです。

ところが、抗生物質(抗菌薬)を多用しているはずのわが国、日本ではVRE(ヴァンコマイシン耐性腸球菌)にもMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)にも、何とか対処できている印象があります。もちろん感染者・発病者はいるのですが、欧米ほど悪化しないようなのです。そこで脳裏に浮かぶのがあの独特の島国腸内フローラです。恐らく私たちの腸内フローラは、少々体力が落ちていても、抗菌薬にフローラをかき乱されても、多少のことでは病原菌を腸管に付着させないようにブロックしているのではないかと推測されます。これはご先祖様からの、そしてお母さんからの有難いプレゼントだよなぁ、と院内感染腸炎の患者さんが難を逃れる度に筆者は胸をなでおろすのです。

腸内フローラに存在する細菌

では腸内フローラを形成しているのはどのような細菌なのでしょうか。善玉菌と悪玉菌、日和見菌にわけることは何十年も前からおなじみの分類ですが、悪玉菌が体内で有用な働きをすることもあるという事実や、日和見菌が腸内フローラの状態によって悪玉菌のような働きをするのは日常的にみられる現象であることなどから、なかなか区別が難しく言葉として適切ではないかもしれないということも指摘されています。

また、いわゆるデブ菌・ヤセ菌についてはまだその概念が確立されておらず、あくまで腸内フローラと痩身目的のダイエットとの関連の文脈においてこの頃になってクローズアップされてきた言葉なのでこれまた科学的には適切ではないといえます。ただ、最近の健康食品の文脈で語られるヤセ菌はクリステンセネラセエである事が多く、この菌に関しては、腸内フローラ全体にも影響する可能性が示唆されているヤセ菌です。強力な痩身効果があるのか、もしくは触れてはいけない腸内フローラのコントロールボックスなのか、健康に関して両極端の可能性を秘めており、これからの研究を待たなければいけないと思います。

このように科学的に、医学的に正しい用語とは言えない善玉菌・悪玉菌やデブ菌・ヤセ菌といった括り方なのですが、腸内での働きを説明する便宜上わかりやすいので、これらの用語を以下の説明にも用いていきたいと思います。学術的な記載も交えていきますのでなかなかまとまりにくいところもありますがご容赦ください。

まずは腸内細菌と聞いて思い浮かぶ事が多いであろう乳酸菌が属しているフィルミクテス門の細菌から説明していきます。フィルミクテス門の細菌は一般論としていうとデブ菌にあたります。エネルギーをどんどん取り込むので飢餓状態にあった人類の祖先には有効な菌種であったと思われますが、飽食の現代日本では不名誉なデブ菌という名前を頂戴しているかわいそうな菌です。しかし、乳酸菌が明らかに免疫系の調節によい働きを示していることからもわかるように、デブ菌のグループにありながらもトータルで働きをみると善玉菌、というような状況であるということはご理解下さい。

乳酸菌:これは各社が総力をあげて研究をしている善玉菌の代表のような細菌といえます。糖類を分解して乳酸を作り出す働きがあります。それだけではなく、免疫に与える影響が大きく、フェカリス、LG-21、L-92、R-1、LGG、カゼイシロタ、プラズマ、ラブレなど多くの株(乳酸菌の中でも特徴的な働きをする個体群のことです)が、アレルギーや感染症に対して抑制的に働くことがわかっています。大きくわけると過剰な免疫を正常化する(花粉症やアレルギー疾患を抑える)系統のL-92などと、NK細胞(がん細胞など異常な細胞を攻撃します)を活性化させるR-1株やラブレ株、免疫系においてNK細胞の上流にあり司令塔の役割をしているpDCに働いて免疫全体に影響を及ぼすプラズマ株、免疫系の維持に効果が期待されているフェカリス株群、腸内環境を整えつつ免疫を活性化する乳酸菌SP、カゼイシロタ株などがあります。LG-21株などは胃内のピロリ菌を減らすというユニークな働きを持っていますし、更なる研究が進む分野だと思われます。

ウェルシュ菌:腸内の常在菌ですが、悪玉菌に分類されることが多い細菌です。腸の中だけではなく、自然界の土壌や河川などにも存在し熱に強い特徴があります。そして何よりも、調理して数日経過した食べ物の中で爆発的に増えることがあることで知られています。作りおきしたシチュー・カレーなどで集団食中毒を起こすこともあります。

腸球菌:健康な腸内では問題にならないことが多いのですが、数が増えると感染症を引き起こします。特にバンコマイシンという強力な抗菌薬に耐性をもったVRE(Vancomycin resistant Enterococcus faecalis)が20世紀末に欧米で猛威をふるったことがあり、院内感染を起こしやすい細菌として医療現場では重要視されています。

ユウバクテリウム:短鎖脂肪酸を生成する有用な働きを持っていますが、乳酸菌や後述のビフィズス菌と異なり加齢とともに減少しないという不思議な特徴を持っています。この特徴がビフィズス菌や乳酸菌などのいわゆる善玉菌においては見られずに加齢と共に減少していく一方なのはなぜなのか、研究がなされています。

アリアケ菌:肥満と肝疾患、多くのがんに影響する可能性があるということが近年わかってきました。日本の癌研有明病院が報告したので病院名をとってアリアケ菌と命名されています。がんとの直接の関係を示した腸内細菌は珍しく更なる検討が待たれますが、腸内細菌の研究はコントロールが難しいので難航するかもしれません。 

次はアクチノバクテリア門です。

ビフィズス菌:乳酸と酢酸を産生する、これも善玉菌の代表格です。乳酸菌よりも個数が多いことから腸内環境を整える働きが強いと考えられています。マクロファージという細胞に働きかけて免疫の調整を図るBb-12菌、大腸のバリア機能を高めるLKM512株やB-3株、便通がよくなるFK120株やビフィズス菌SP株、NK細胞を活性化するHN019株などは多くのヨーグルトに使われています。副次的な効果として脂肪の蓄積を抑える、肌荒れを防ぐ、などの効果を示すとされている株も存在します。免疫系に関わっているとされる菌も少なくありません。乳酸菌が小腸に多いのに対して、ビフィズス菌は大腸に多く存在します。ここでお示しした株はいずれも製品化されているので(乳酸菌の項も)、今度ヨーグルト売り場の前を通りかかったら探してみて下さい。自分にあった菌株がみつかると健康に資するところ大です。

次はプロテオバクテリア門です。

大腸菌:もともとその名前に比して腸内での数は多くありません。ただ、病原性を持った株が増殖してしまうと腸管感染症を引き起こします。病原性大腸菌の中でもO-1などはほぼ常在菌のような穏やかな症状しか起こしませんが、O-157などは腸管出血性大腸菌として激しい腸炎を起こし時に命に関わることがあります。非病原性の大腸菌は日和見菌、病原性大腸菌は悪玉菌と考えるべきなのですが、その線引きは難しく(体力の弱いヒトにとっては病原性があるが健康なヒトには全く影響がない、など)表面抗原によってO-XXというように分類されています。

最後はバクテロイデス門です。

バクテロイデス(総称として):短鎖脂肪酸を作り出すことから生体に大きな影響を与えています。これがまさに世に言うヤセ菌の一群です。腸内常在菌の7割ほどを占めているとも言われており、日和見菌として扱われる細菌が多い傾向にあります。ただし口臭や体臭の原因になっているという研究もあり、良くも悪くも腸内細菌らしい働きをしている細菌の群といえます。

おまけとして。クリステンセネラセエ:近年シークエンシングで発見されたフィルミクテス門の細菌ですが、フィルミクテス門にしては例外的にBMI(Body mass index:肥満の度合いを簡易測定できる尺度です)の低い、つまり痩せている人の腸内に多くみられることから「ヤセ菌」なのではないかと医学的にも美容分野的にも期待されています。現状ではこの菌が短鎖脂肪酸生成に働いていることから脂肪細胞へのエネルギー取り込みを抑制しているのではないかと考えられていますが、前項でお示ししたように腸内フローラ全体の構成に影響を及ぼしている可能性もあり、摂取する意義や方法、また安易に取り入れてしまって良いのか、など研究が進むまでは時間がかかりそうです。

バクテロイデスが増加した腸内ではフィルミクテスは減る傾向にあります。フィルミクテス(BMIの高い人に多く存在する傾向にあります)はわずかな栄養分から多くのエネルギーを生み出すので、当然といえばその通りなのではありますが。ただフィルミクテスを一概にデブ菌として捉えてしまうと、クリステンセネラセエの存在や、乳酸菌自体がデブ菌ということになって腸内フローラをトータルで捉えた時に混乱してしまうので、デブ菌、ヤセ菌という対立概念はあいまいなものとして捉えておいたほうがよいように思われます。

しいていえば短鎖脂肪酸産生の働きのある菌群は、脂肪細胞への栄養の吸収を阻害するので、理屈の上ではヤセ菌として扱ってよいのかもしれません。

いずれにしても、現代の「痩せ」への情熱は尽きせぬものがあるので研究が進むにつれて恩恵があるかもしれません。各論1で述べた私個人の手法としては、R-1乳酸菌が入った製品と、Bb-12ビフィズス菌が入った製品を併用して摂取しています。水溶性繊維質、不溶性繊維質やオリゴ糖の摂取も同時進行です。

ただ、これは個人差が大きいものであることがわかっていますので、自分に合う菌株を少し探してみることをお勧めします。体内に入った乳酸菌・ビフィズス菌は胃酸でほとんどが死滅し、大腸まで達するのはわずかだと考えられています。それでも増殖すればかなりの量になるのですから驚かされますが、いずれにせよ腸内にとどまっていられるのは24時間程度のものがほとんどだと思われますので、色々な菌株を試してみる際には毎日、2週間程度続けてみることが推奨されています(付言しておくと、合っているとわかる場合はほとんど3日ぐらいでわかると思います)。

自分に合っている菌株を見つけても、夢中になって毎日とりすぎると小腸内細菌異常増殖症(これはこれで過敏性腸症候群と関連しているのではないかと疑われていて今トピックの分野です)といった現象を起こしてかえって体調を崩すこともあるので、たまには休んでみることもむしろ必要なのではないかと言われています。本気になって取り組まないで、「なるべくならやってみよう」位の気持ちで腸内フローラをかわいがってあげることが秘訣であると何人もの専門の医者たちは言っています。何事も無理は禁物です。

腸内フローラと健康:様々な病気との関連

総論でもふれましたが、腸内フローラは研究が進むにつれて実に多くの病気との関連があることがわかってきました。いまだに全容はつかめていないのが実情ですが、今までにわかってきたことを挙げてみましょう。

肥満とメタボリックシンドローム:これは各論1でお示しした通り、腸内フローラと密接な関係を持っています。研究が進むことが期待されますが、あやしげな健康療法も増えると思われるので要注意です。一般論としてはバクテロイデス門の菌が減り、フィルミクテス門の菌が増えすぎることと関連があると考えられます。つまり短鎖脂肪酸が鍵になると考えられており、バクテロイデス門が産生する短鎖脂肪酸が脂肪細胞への栄養の取り込みを抑制することが直接的に体重増加を抑えると考えられています。また、短鎖脂肪酸の一種である酢酸が脳に届くと食欲を抑える刺激となって食べすぎを抑制する効果もあります。これらのシステムをどのように活性化させて肥満やメタボリックシンドロームを予防し、その先にある糖尿病や血管障害などの諸問題を防いでいくかが課題だと考えられます。

クリステンセネラセエに関してはその影響がどの程度あるのか研究が進むのを待つべきだと思われ、現段階でこの菌の効果をうたっている健康食品は若干あやういのではないかなと個人的には思います。

花粉症や各種アレルギー疾患:腸内フローラの乱れや、血中に取り込まれる短鎖脂肪酸の量との関連があるとの報告があり、実際に「花粉症にはヨーグルトで乳酸菌補充」という考え方は、仕組みはともかく市民権を得つつあるのではないでしょうか(とは言えやはり効果のほどは人それぞれかと思われます)。これは短鎖脂肪酸の一種である酪酸が制御性T細胞に働きかけてエピジェネティック(遺伝子の配列は変わらないままにメチル化やヒストンの重合、三次元構造変化など-説明は割愛します-で遺伝子の働き具合が調節されることを指します)なスイッチングをしているためだということがわかってきています。制御性T細胞は免疫システムの中心的な働きをするリンパ球で、免疫系の暴走を制御する働きがあります。恐らくこの制御性T細胞の活性化が鍵になっているものと思われます。

インフルエンザや気道感染症:腸内フローラが乱れるとNK細胞(これもリンパ球の一種です)の活性が落ちて各種感染症にかかりやすくなるという説がありますが、検証はまだ不十分と思われます。ただ、NK細胞は免疫システムの中ではジョーカー的に働き、がん細胞や病原体などから身体を守るという働きを持っています。乳酸菌の数種類がNK細胞の活性を上げることは実証されており、腸内フローラの乱れというよりもこのような有用な善玉菌が減ってしまうと感染症に弱くなる、という方が実際的なのかもしれません。

潰瘍性大腸炎や自己免疫疾患:潰瘍性大腸炎についてはオランダの研究で糞便移植が有効だったという報告がありましたが日本での検討ではさほどの効果を得ることはできませんでした(後述します)。自己免疫疾患の一種である多発性硬化症の日本における増加は腸内フローラの変化が関係しているのではという説もあります。

自閉症スペクトラム:自閉症傾向の子供たちの腸内フローラが乱れているということから、マウスでの研究が進んで目覚しい発見が得られています。自閉症傾向モデルマウスに一般的なマウスの腸内フローラを移植すると自閉症傾向が緩和されたという画期的な発見でした。自閉症の治療や発症機序はいまだよくわかっていないことから、その解明に役立つ可能性が期待されています。

自閉症に関してはもともと米国で研究が進んでいました。基本的には自閉症は先天的な(つまり生まれつきのものということです)脳の疾患として考えられていますが、生後の抗生物質使用と破傷風菌との関連が指摘されています。実際、自閉症の子供の腸にはクロストリジウム属の細菌が平均10倍ほど多いことが報告されています。また、発達障害にも腸内フローラの関連が示唆されていて、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と腸内フローラの関係も指摘されています。ただこれらのメカニズムはまだ明らかになっていません。

うつ病・慢性疲労症候群:これらもマウスでの腸内フローラ移植によって症状の緩和がみられることから、腸内フローラの関連が疑われています。ただ、なぜ腸内フローラ移植が影響を及ぼすのか、というところが不明であること(下記の通りセロトニンの影響が考えられていますが)と、人の腸管をいったん無菌に戻してフローラを移植することが不可能であることから、まだ手がかりを得た段階だと思われます。

がん及びその他の悪性腫瘍:肝臓がんを引き起こしていると考えられる腸内細菌(アリアケ菌)が日本で発見され、インパクトをもって学会に迎えられました。この菌が排出するDCAという物質は細胞老化を引き起こして発がん性物質を放出し大腸がん、前立腺がん、乳がん、肝臓がんの原因になるという報告でした。マウスでの実験段階ですが、発がんの原因究明につながりうる発見とおもわれます。癌研有明病院の研究に賛辞を送りたいと思います。

また、これはまた別の細菌ですが、大腸がんが発生した部位に高率に発見されている細菌があり、どうやら大腸がんに関連しているのではないかと最近注目されているものがあります。研究が進むようであれば、これは大腸がんの予防に変革を起こす可能性を秘めています。元々大腸内では発がん性を持った物質が絶えず生成されているので、人工的な発がん物質を経口摂取しなくとも、アンモニアにはじまりインドール、スカトール、アミン類といった発がん物質に常にさらされています。また、アミン類は亜硝酸塩と化合して強力な発がん物質であるニトロソアミンに変化します。また、肝臓から胆嚢、胆管由来で十二指腸からはるばる流れてきた胆汁酸(便が黄茶色になる原因の物質で脂肪の分解に関わっています。ビリルビンとコレステロールから生成されます)はほとんど小腸で回収されてしまうのですが、一部が二次胆汁酸として大腸まで届いて発がんを促進することがわかっています。これらの発がん性物質があっても簡単には発がんしない大腸には腸内フローラが作り出すビタミンCなどのニトロソアミン生成抑制物質のみならず、何らかの防衛機構が働いているものと考えられています。

このように、身体のありとあらゆるところの病気に関連しているようにみえる腸内フローラですが、エネルギー代謝という本分を除いて、鍵になるのは2つの点であることがおわかり頂けるかと思います。1つは免疫、もう1つは脳腸相関です。

免疫についてはNK細胞が感染症や自己免疫疾患、がんのごく初期の段階に深く関わっていることは良く知られており、そのNK細胞の活性に腸内フローラが関わっていることからこれらの問題が関連してくるのはある程度予想されることです。しかし、どのように活性を確実に上げるか、またどの程度活性があがればどの程度の疾病予防ができるのかを定量化できないところに効果を立証することの難しさがあります。ただ、いずれにせよNK細胞の活性化を引き起こす、いわゆる善玉菌(乳酸菌やビフィズス菌)を摂取することが身体にメリットである可能性はあるのではないかと思われます。

脳腸相関という言葉は私が学生だった二十数年前からトピックになっていた言葉であることからもわかる通り、脳と腸が密接な関係を持っているであろうことは相当昔から医学界では注目していました。過敏性腸症候群などはその一例です(不安などのトリガーによって下痢や便秘などを引き起こす病気です)。ただ、その証拠をつかむのはとても難しいものでした。これまで得られている傍証としては、腸に分布する迷走神経は脊髄よりも多い細胞数を持ち、感情や消化管運動に大きな影響を持っているであろうこと、腸内フローラによってセロトニン(いわゆるセロトニン仮説によるとセロトニンの分泌不足によってうつ病が発症するとされています)やドパミンなどの感情や意欲を左右する神経伝達物質が産生されるということ、GABAという抑制系の神経伝達物質も腸内フローラで産生されていることなどです。しかし、現在ではマウスの実験によって腸内フローラ単位での移植など新たな展開を見せており、脳と腸の関係のダイナミズムが解明される日も近いのかもしれません。ただ、実臨床に移る段階で壁になるのが、人の腸管をいったん無菌に戻してフローラを移植することが不可能であるという事実でしょう(しかもいったん無菌に戻しても新たに入れたフローラの細菌を、腸管にあるIgAが取捨選択してあたかも「選り好み」のように働くことがわかっていますのでフローラ移植はヒトにおいては難度が高いと思われます)。

いずれにしても、腸内細菌が人の性格にまで影響を及ぼしている(セロトニン仮説にもリンクするものと思われます)とまで言われている今、腸内細菌をケアすることは心身ともに健康であるために重要なことであると言えましょう。

もう1つ、最近のトピックを挙げておきます。腸内細菌に関連して「リーキーガット症候群」というものがトピックになっています。腸の透過性が亢進することによって(あたかも腸の内容物が漏れたかのように)慢性炎症が起きて様々な病気(アルツハイマー型認知症、うつ病、ADHD、自閉症、カンジダ感染症、慢性疲労症候群、橋本病、過敏性腸症候群、メタボリックシンドローム、多発性硬化症、NAFLDなどの肝臓疾患、パーキンソン病、関節リウマチ、糖尿病、炎症成長疾患など多数)を引き起こすという概念です。ただ、ここに挙げた疾患名の多くが、腸内フローラに関連していると思われる疾患であることから、原因の全てをリーキーガット症候群で説明するのには難しいところがあるのではないかと疑ってしまいます。

リーキーガット症候群は食品添加物や人工甘味料、穀物類(特に小麦)、豆類、乳製品などとの関連が指摘されていますが、これをすべて除去して食生活をバランスよく摂っていくのは不可能です。従来の治療で治らなかった慢性疾患でお悩みの方にとっては福音のように聞こえるかもしれませんが、筆者個人の感想としてはもう少し研究が進んでから生活に取り入れていった方が無難ではないかと思われます。なぜかというと、その分野の先駆者はえてして先鋭的になってしまい、身体全体のことを考えずにリーキーガットの事を優先的に考えてしまう傾向にあるからです。これはどのような治療法にもいえます。次の章でとりあげる糞便移植でも同様のことが草創期にはみられました。医者はもちろんのことですが、患者さんもバランスよく物事を俯瞰しないと危険が待ち受けていることがあると思っておいたほうがよいと思います。

ただ、リーキーガットの考え方は合理的で、特定の抗原になる食物を除去することによって症状改善につながる可能性がある、今後期待できる分野であることは確かだとは言えます。

腸内フローラの異常はあまりにも多くの疾患と関連しているため、それが原因なのか結果なのかという議論が絶えません。海外の研究者は、腸内フローラの乱れと慢性疾患の関係を説明するために「Common ground仮説」というものを提唱しています。つまり、さまざまな原因によって腸内フローラが乱れると腸に異常が生じるが、それは誰にでも起こるわけではなく、その人が遺伝的に特定の慢性疾患を発症しやすい場合にのみ、腸内で病原性の最近が増殖して発症する、という考え方です。

つまり、従来なされていた遺伝的背景とリスク因子などの研究と合わせて疾患をみていかないと、腸内フローラの乱れだけで疾患全体を説明するのは難しいであろうという考え方です。とても理性的な考え方だと思います。

この考え方をベースにして今後しばらく腸内フローラ研究が進んでいくことになりそうです。

医学的にほぼ唯一劇的な効果を挙げる腸内フローラ関連治療:糞便移植

今となっては日本においては特定の医療機関でしか積極的に行われていない糞便移植は、2015年ごろには一般の新聞(朝日新聞の科学面の切抜きを私に見せてくれた患者さんがいたのを覚えています)にも記事が掲載されるほど注目されていたものでした。

特に、難病指定の潰瘍性大腸炎の治療として非常に有望ではないかと考えられ、多くの医療機関が許可を得ての臨床治験を行いました。潰瘍性大腸炎は今のところ原因不明(遺伝的要素と環境的要素が複合的に発症に関わっていることはわかっています)で、完治することのない難病で全国に20万人の患者さんがいます。安倍首相も潰瘍性大腸炎の悪化で第一期政権では辞任せざるを得ないほどの体調不良におちいってしまいました。良いときと悪化するときの波があるのが特徴で、極端に悪化すると全大腸切除手術をせざるを得ない厳しい病気です。悪化時には昔はステロイドなどを使って治療していたものでしたが、現在では分子標的薬(Infliximab:レミケード)などの新しい治療法が使えるようになり、「良い時代になったなぁ」と思っていたところに、糞便移植がかなり有効だという報告がオランダからなされて衝撃を受けた記憶があります。

日本と欧米ではもともと潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子がやや異なることなどから(様々な治療薬の効果も少し異なります)、糞便移植もさほどの効果を挙げられないのではないかという予想をした医者は私を含め多かったと思うのですが、結果からいうと日本人においては、糞便移植単独では思っていたほどの結果は現れませんでした。ただ、本邦で唯一、抗生剤の多剤併用療法(ATM療法)を元々行っていた順天堂病院が、ATM療法と糞便移植とを組み合わせて国内随一といっていい成果をあげています。もともとATM療法にも効果がある程度はあったような印象でしたので、そこに上乗せする事によって、ATM療法・糞便移植併用療法に有意な効果が示されたのではないかとも推察されます。あたかも白血病治療のときの化学療法で叩いてから骨髄移植をする、などの方法に似ているので有望な印象を抱くことも無意識下に影響しているのかもしれません。

筆者もなかなか炎症がくすぶっておさまらない潰瘍性大腸炎の患者さんに乞われて糞便移植について順天堂病院にご紹介したことがありましたが、そのときは「糞便移植に適さない」とのお返事でした。当時筆者が行っていた治療が効果をあげつつあった途上だったので、「その治療をご継続ください」とのお返事でした。適した患者さんを厳選して、むやみに数を増やそうとしないところに科学者として、医者としての信念を感じ、信頼感を覚えました。症例を増やすことによって、ATM療法・糞便移植併用療法が有効に作用する患者さんの特徴を見つけることができれば、更に成績は上がることと思われます。今後の成果を期待して待ちたいと思います。

海外では、糞便移植はある種の腸炎に対してスタンダードといえる地位を占めるまでになっています。それは潰瘍性大腸炎に対してではなく、クロストリジウム・ディフィシル(細菌の名前です)腸炎に対してです。あまり聞き覚えのない細菌名かもしれませんが、免疫力の衰えた高齢者やがん患者では致死的な転帰をたどることもある腸炎を引き起こし、院内感染も起こしやすい恐ろしい細菌です。日本では幸い2種類ほどのまだ有効な薬剤があり対応できている状況ですが、欧米、特にアメリカでは多剤耐性のクロストリジウム・ディフィシル腸炎が蔓延しており、院内感染で爆発的に広がるとかなりの致死率になることで恐れられていました。

しかし、これらの患者に健康な人の糞便を移植すると9割以上の確率で効果があるということがわかり驚きと歓喜をもって医療現場に迎えられました。移植の仕方はいろいろあるのですが、健康な人の糞便をフィルターでろ過して、大腸内視鏡を使って一番奥の盲腸付近に散布してくる方法が一般的なようです。しかし、全身状態が悪く大腸内視鏡ができない方に対してはカプセルに入れて内服(製品化されるそうです)してもらったり、鼻から小腸まで管を入れて流し込んだりといった方法で行われているようです。

いずれにせよ、どんな抗菌薬を使っても救命できない可能性のあった免疫力の衰えた患者の激しい腸炎に、濾過した糞便を流し込むことによってこれだけの劇的な効果が現れるというのは不思議という他になく、いまだになぜ効果があるのか根本的な原因はつきとめられていません。今まで何度も述べてきたとおり、腸内フローラはそう簡単に変わるものではなく、それは他人の便を流しこんだからといってやはり変わるものではないはずです。しかもろ過してあるので、恐らくは便の中にある抗炎症作用を持つなんらかの物質がクロストリジウム・ディフィシルを押さえ込むのだろうと考えている医者が多いのが現状です。

筆者のような研究者にとっては、腸内フローラは基本的には変わらないはずなのに、他人の便が大腸に入ってもIgAの取捨選択と元々の腸内フローラにはじかれるはずなのに、何故効くのかやはり不思議で仕方がありません。しかし考えてみれば激しい腸炎を起こしてしまった時点で腸内フローラは既使用の抗菌薬とクロストリジウム・ディフィシルの増加でボロボロになっているでしょうし、そのような特殊状況であればこそ、他人の便の影響が現れるのかもしれないという漠然とした認識は持つようになりました。

なにより、実際に患者さんを治療もしている臨床医としての側面の私は本当に有難いことだなぁと思っています。勇気を持って初めてクロストリジウム・ディフィシル腸炎に糞便移植を試してくれたドクターには感謝しかありません。理由はわからずとも、効くのであればよいではないか、というのもまた医学の真実だと思います。現代でも東洋医学などは西洋医学の視点から見ると不可解な部分が多いのですが効果は実際に目に見えて出てくるわけで、そのような状況と似ているのかもしれません。

糞便移植についての問題点をいくつか挙げておきます。これは輸血などと同じく、現代の医学では未知の感染症をうつしてしまうのではないかと言う問題です。B型肝炎やC型肝炎、HIVにクロイツフェルトヤコブ、他にも枚挙にいとまがないほど医原性の感染は数多く存在しました。現代医学が全ての感染症を把握したと到底いえないわけで、今後も未知の感染症が発見されて、既になされた糞便移植で感染してしまった、という状況は十分あり得ることだと思われます。日本では一般的には血縁者をドナーとして移植を行います(それでも未知の感染症の感染を防ぐことはできません)が、欧米では糞便バンクとでもいうべき、健康な人の糞便を貯蔵しておいてそれを適宜使うという方法をとっており、倫理的に、また心情的にもなかなか受け入れがたいものがあります。医原性の感染が起こった場合の補償などについてきちんと行われていないケースも多いであろうことを考えると、日本でも今後態勢作りをきちんとしていかなければならないと思われます。しかし、現状で旗振り役がいるわけではない(身もふたも無いことを言うと、薬ではないため製薬会社がお金を出してくれないので誰も旗振りをしようとしません)ので、なかなか難しいのだろうなとやや悲観しています。

実臨床の場では、糞便移植を複数種類の細菌の投与で置き換えようという試みもなされているので、そちらの方が安全性は高いのかもしれません。ただ、糞便中の未知の物質が効果を挙げているとすれば、複数種類の細菌で代替できるものではないのかもしれず、臨床的な効果を挙げることと、倫理的な問題とはトレードオフの状態にあるのかもしれず兼ね合いは難しいものがあると思われます。

また、項を改めて紹介しますが、倫理的に問題のある糞便移植が自由診療で行われているという事実もあり、これは感染制御の観点からも非常に問題が多いのではないかと考えます。

動物実験レベルでは糞便移植はかなりめざましい成果をあげており、単にクロストリジウム・ディフィシル腸炎に効くだけではなく、自閉症やうつ病などの方面に成果が上がる可能性も秘めています。まだ実臨床に生かすには時間がかかることは間違いないところでしょうけれども、疾患の解明の糸口になることを期待したいと思います。実のところを申し上げると、実際に体内の細菌叢を研究している世界の医学者たちの関心は腸内フローラから口腔内細菌に既にシフトしていっています。新しい業績を挙げようということがやはり優先になるので、フロンティアを目指すのは仕方のないことといえばその通りなのですが、手がかりのあった腸内フローラの研究が研究者の手から離れてしまうのはもったいない事だと思います。これは日本においても、(最近の文部科学省の研究予算配分の問題もあるので根は深いのですが)やはりその通りで、手近に得られる果実はそれなりの味しかしないのではないかなぁと慨嘆することもあります。

ただ一般的に言えば、前項の最後でお示しした「Common ground仮説」のように、腸内フローラの側から疾患の解明が難しいと捉える考え方が強くなってきているのは確かです。クロストリジウム・ディフィシル腸炎治療以外における糞便移植はあまり目覚しい効果を挙げていないようですし、クリステンセネラセエの単独投与も目立った効果を挙げてはおらず、臨床寄りの研究者たちのモチベーションも下がりつつあるのは事実です。

その点に関しては欧米より2017年にNew England Journal of Medicineという医学界で最も権威ある医学雑誌に、「腸内フローラが様々な疾患に関連するとしても、どこかの段階で一部では遺伝的要因が関わってくるので腸内フローラを整えるだけで疾患を予防できるというわけではない」という総説が出たことによっても科学者たちの議論の趨勢が定まったともいえます。

ただ、これは腸内フローラの研究価値を貶めるものではなく、従来からなされている遺伝的要因の発見と、その意義の機能解析という方面の研究と同時に、腸内フローラというある種「結果」のようなものとを並行して研究していかなければいけない、という意味にとらえるべきだと筆者は考えます。

世に溢れる腸内フローラ関連ビジネスを斬る

日本では古くから「腸内フローラを整える」ことを目的とした食品や健康食品が販売されています。これらを継続して取っている方も多いかと思いますが、ふと立ち止まって考えてみてください。「そんなに良いものなら医薬品として厚労省が承認して発売になるはずでは?」と。確かに一部の整腸剤は医薬品として発売されていますが、実臨床の実感として効果は「さほどではない」「飲まないよりはまし」「他に処方する薬がない」といったようなものです。

後述するシンバイオティクスの概念が出てからは、救急医療の分野や腸炎の治療などで有効性が実感されるようになってきましたが、整腸剤1剤を単独で使ってもなかなか効果は限定的なものではないかと思われます。

乳酸菌飲料で最大手のヤクルトさんは最近抗がん剤にもその業務範囲を広げてきていますが、食品・飲料として腸内フローラを劇的に改善するという効果に関して最近はうたっていません。むしろ、毎日飲むことを推奨しており、それはとりもなおさず、毎日飲んでいるものが腸内フローラにはじかれて定着しないことを暗に認めているからこそとも言えます。科学的に正しく、あるべき姿と言えましょうけれども、商品のアピール力としては弱くなってしまいます。ヤクルトさんはその企業体力から、腸内フローラの研究の発展にも尽力してきました。日本人は有形無形の恩恵を受けていると思われるので感謝すべきだなと思うこともあります。

ビオフェルミン製薬さんのものも同様です。確かに医薬品としても使われるビオフェルミン製剤は優秀な印象はありますが。しかし、整腸剤の名前が社名になったのですから、どれだけ整腸剤が売れたのかと考えると恐ろしくなるほどです。人々の腸にもたらした効果と見合ったものなのかどうか考え込んでしまいます。いや、役立ったはずです。

ガセリ菌SP株、ビフィズス菌SP株、とその名に「Snow Probiotics:SP」の名を燦然と刻む雪印メグミルク社も、様々な問題で会社のイメージが落ちてしまいましたが、腸内定着のよい上記の菌株を開発するなど腸内フローラ関連企業として本流のお仕事をなさっています。

これらの大手の製品はまだ良心的です。ネットに氾濫している有象無象の商品に至っては身の危険を感じるものもあります。

例えば宿便を一気に体外にだすというふれ込みの諸々の刺激性下剤系の商品。ただでさえ便秘の方をターゲットにしているのですから尋常ではない量の大腸刺激性の下剤が必要になります。健康な方でも脂汗をかいて悶絶すると効いたことがあります。しかも、万が一にも腫瘍性の狭窄、つまり進行大腸がんなどが原因の便秘だった場合、腸閉塞を起こし最悪の場合腹膜炎で生命に関わる事態も起こりえます。また、高齢の方の場合などでは狭窄がなくとも、腸が血流不足に至り、虚血性腸炎を起こして激しい血便と腹痛などを引き起こします。こういった事例は実際に存在することから、安易に刺激性の下剤を大量に服用して宿便をとりましょうといったビジネスには危険が潜んでいると考えるべきです。

見分け方の1つとしては「宿便」と言う言葉を使う場合は怪しいと思ってよいでしょう。仮にも医学を学ぶなり、本職でなくとも教科書やネットで勉強していれば、宿便と言う単語は気恥ずかしくて使えないはずです。何故かというとそのような概念は存在しないからです。

腸内細菌を補充するサプリメント、ということで売り出しているものをネットでみていても考え込んでしまうことが多々あります。ビフィズス菌が何種類も入っていて乳酸菌も各種入って、オリゴ糖と食物繊維が入って、なるほどこれは定着する菌もあるかもしれないなぁなどと思って値段をみると初回1月分が2000円で、次の月からは2万円、などと恐ろしいお値段での販売になっていたりします。1月目に効果が実感できた人はがっかりするだろうなと思いつつ、もっと安くていい商品がたくさんあるのだけれど、一度お腹が楽になってしまうと他の安価な商品には目が行きにくいのだろうなと嘆息することが多いです。

なぜか腸内細菌サプリメントにはこのような価格設定のものが多く、別のサイトでも初回3000円、2ヶ月目と3ヶ月目は1万円で、3か月分セットで購入しないといけない、というようなものもありました。恐らくきちんと作られたサプリメントは最初の2週間で既にある程度の効果が実感できるので、2ヶ月目にやめるとなると「せっかく得られた快適な腸の調子」を失ってしまうことの恐怖感というか損失感情が大きくでるものと思われます。そこにつけこんで2ヶ月目から高価にするというのは、有体に言ってヒトの足元を見た商売だと言わざるを得ません。

ただ、逆に考えてみると商品自体はとても良いものを提供している可能性があります。2ヶ月目以降も高いお金を払ってでも続けたいと思わせるだけの商品なのであれば、お金を払える方にとってはそう悪い話ではないのかもしれません、と考えることもできます。

ヤセ菌でダイエット、というサプリメントは旬を過ぎたのかネットで探してみてもさほど多くみかけなくなってきたような印象があります。あったとしても、バクテロイデス、つまり日和見菌に短鎖脂肪酸を産生させて脂肪細胞へのエネルギー取り込みを抑えるためにオリゴ糖を配合する、というような手法で、まぁこれならそんなに副作用というか害もないかなというような印象のものが多くを占めています。金額のことが気にならないのであれば摂取して悪いこともなかろうというのが正直な感想です。

クリステンセネラセエがサプリメントになったらインパクトがあったでしょうけれども、結局実用化には至らなかったようです。2017年のNew England Journal of Medicineの総説が全てで、クリステンセネラセエが定着するかどうかも含めて、遺伝的な影響を排除できないということが製品化できない決定的な理由だと思われます。太っているということがある程度遺伝的に規定されているということにつながるわけで、それはそれで脱力感を覚える事実ではあります。

また、腸内フローラを解析するビジネスも最近流行っているようですが、それぞれの項目、例えばバクテロイデスの比率、が何を表しているのかまだすべてが明らかになっていない現状で1回1-2万円程度の料金を巻き上げるのはいかがなものかと思います。金額自体はさほど高くはなく良心的かもしれないと思えるのですが、腸内フローラ全体の多様性があるとか乏しいとか、そういわれたところで是正のしようもないことを指摘されても健康に寄与するところがありません。バクテロイデスの比率が少ないといったからと言って増やせば痩身効果も得られて万歳というわけではなさそうなところが現状の腸内フローラ理解だと思います。むやみに解析してもらっても現段階では健康に生かすことが難しいと思われ、それは当然運営している会社や利用している人々(クリニックも含む)もわかっていることでしょうから、ある意味で「わかっていてやっている」ことなのだろうなと思ってしまいます。これはもはや医学ではなく経済学であって、倫理の問題になってくるので議論をするのはやめておきます。

あとは、なんでもかんでも腸内フローラを改善することで病気が良くなる的なサプリメントは後を絶ちません。子を思う親の気持ちを利用するものが多く、アトピー性皮膚炎についてこれが効くと言い張る商品はなんとも切ないものがあります。アレルギーに腸内細菌が影響しているのは確からしいことですが、それだけでアトピー性皮膚炎が治るというのであればとっくに保険収載されて全国の医療機関で使われているはずです。これはどのような民間療法にも言えることで、明らかに効くものであれば日本は意外に医療に優しい国なので認めてくれるのです。

漢方製剤がそのよい例です。大建中湯や六君子湯など、めざましいデータを叩き出している薬もありますが、いまだにはっきりとしたデータは出ていない、でもこれは確実に効くのだよねと医者も患者も思っている薬は薬事承認され続けています。

サプリメントを買うときは、この薬がなぜ通販でこっそり売っていて、どうして病院で処方されていないのだろう、という観点で一度立ち止まって考えてほしいと思います。

特にわが子の為に、という親御さんにアトピー性皮膚炎にも喘息にもアレルギー性鼻炎にでもとにかく何にでも効果があるなどと言って怪しげな緑色の液体などを売りつけるビジネス(最近はネットで知識が得られるので被害者はだいぶ減ったのかもしれませんが)は許しがたいものがある、とかつて緑色の液体を飲まされた元アトピー性皮膚炎の筆者などは憤慨しているのです。

現代のようにネットで情報がすぐ入手できる社会でも怪しげな商品にヒトは一定の確率で騙されてしまいます。なぜ偽者の商品にだまされるのか、というのは昔から科学者たちの研究テーマでした。一般的に言って偽者の商品は、極端に安価(時には極端に高価)で、その時代のニーズを捉えていて(今で言えばいわゆるダイエットだとかご老人の関節痛でしょうか)、破天荒な理論でありながらも何らかの権威(科学者であったり、医者であったりしました)のお墨付きがついていることが多かったと考察されています。

現在でもそれはほとんど変わらず、極端に安価(中国からの輸入サプリメントで安価なものなどでは健康被害-死亡例の報告もあります)であったり高価(高いお金を払ったのだから効くはず、効いてほしい、という無意識が働くとも言われています)であったりしますし、ダイエットではなかなかインチキができないので、お年寄りのひざ関節の痛みにコンドロイチンやコラーゲンを内服するようにしむけるのは今でもよく見かける光景です。コラーゲンなどは消化管の中を通っていくのですから、「そのまま関節の中に入って歩くのが楽になったり、皮下に入ってお肌がぷるぷるになったりする」ということはあり得ないはずです。通常の消化のプロセスを経て腸管から吸収される程度まで小さくなったものが、果たしてどのような影響を及ぼすのかということになると甚だ心もとないものがあります。

実は海外では臨床研究が行われていて(日本でも行われているかもしれませんが)、コンドロイチン・コラーゲン・グルコサミン、その他様々な物質(サプリメントの主成分とされたりしていますが)について効果がないことがわかっています。ではなぜこのようなある種の偽薬(それこそプラセボ効果はあるかもしれませんが)が世の中に出回っているのでしょうか。

実は、これらの問題について日本の福祉保健局は少なくとも誇大広告にあたると認識しています。ただ、違反してもこれらについて重い罰則が科せられないというところに問題があります(誇大広告で実刑判決などというのは確かに聞いたことがありません)。つまり、せいぜい監督官庁のできることは再発防止を求める措置命令だけで、健康被害でも出ない限りそれ以上踏みこんで回収・営業停止といった命令を出すことは難しい、その間に数億円と稼いでしまえば仮に罰金刑に処されても数百万円など痛くもかゆくもないというビジネスモデルになっているわけです。

やっぱり悪いことをするとお金が儲かるのだなぁと感心してしまいそうになりますが、そこには何千人何万人という被害者がいるわけで、いわゆる情報弱者がこのような手口の被害にあうのはやりきれない話です。できるだけ多くの人に正しい知識、医療や健康の知識を持ってもらいたいと思うのです。健康系のウェブサイトで医師が監修しているものなどは一定の信頼が置けるので、情報源としてあてにしてもよいと思います。

世に溢れる腸内フローラ関連ビジネスを斬る

これはよくある腸内洗浄を行っているクリニックの歌い文句をまとめたものですが、説得力を持たせようと苦心の跡が見られます。

「腸内洗浄は、お腹の中を温水で洗浄する療法です。便秘は昔から美容と健康の敵とされてきましたが、食事・運動・内服薬で便秘を解消するのは困難です。

大腸には善玉菌や悪玉菌等の細菌が共存しています。しかし、ストレスや悪い生活習慣により善玉菌が減少して悪玉菌が増えると、腸内環境が乱れ、宿便が溜まり、腸内でガスが発生するなど、腸内の腐敗が起こります。
その結果として、腹満感が生じたり、肌荒れを起こしたり、口臭・体臭がきつくなったりするのです。

根本的に腸内からの改善が必要となります。腸内を洗浄することで、腸壁細胞と腸内細菌を本来の姿に整え、腸からの水分吸収を活発にします。

腸内環境を整え、蓄積した宿便や老廃物を排泄することで、美容・美肌、ニキビ・吹き出物の改善、さらにはアトピーの改善やダイエットにも効果のある、お奨めできるのが腸内洗浄療法です。」

苦心のあとが垣間見える文章です。なるべく医学的な逸脱がないように、しかし魅力的にみえるように、苦心して書いていると思うのですが、はっきり言わせて頂くとでたらめです。

以下、問題点を指摘します。

・食事や運動、内服薬で便秘を改善できなかったら、医学は何のためにあるのでしょう。適切な下剤使用とシンバイオティクス(後述)は便通を確実に改善します。

・何を持って悪玉菌としているのかわかりませんが、「悪玉菌が増えると、腸内環境が乱れ、宿便が溜まり、腸内でガスが発生するなど、腸内の腐敗が起こる」というのはいくらなんでもいわゆる悪玉菌に罪をなすりつけすぎではないでしょうか。腸内環境が乱れるのは百歩譲るとしても、宿便が溜まるのは全くナンセンスです。腸内でガスを産生するのは悪玉菌ばかりではないでしょう。まして腸内で腐敗と読者を脅かしておいて結果として起こるのが、腹満感や肌荒れ、口臭・体臭がきつくなるというなんともささやかな症状で、脱力感を覚えます。

・「腸内を洗浄することで、腸壁細胞と腸内細菌を本来の姿に整え、腸からの水分吸収を活発にします」とのことですが腸内を洗浄すれば腸壁細胞と腸内細菌を本来の姿に、というのが根拠のない断言で恐れ入ります。腸壁細胞というのは粘膜固有層の細胞ということなのでしょうけれど、これは常に入れ替わっているので洗浄して頂かなくとも大丈夫なのですが。腸からの水分吸収を活発にするというのも根拠がありませんが、活発になったからといって何のメリットがあるのでしょう。

最後の一段落についてはもう悲しくなってしまいます。腸内環境を整えるのは結構ですが、蓄積した宿便と老廃物(何を根拠にそういっているのかと問い詰めたくなります。宿便という2文字が書かれた医学書があるなら持って来いと言いたいところです。老廃物?それが糞便なのではないでしょうか)を排泄することで、美容・美肌・ニキビ・吹き出物が改善するなんて誰の研究成果ですか?確かに便秘をしていわゆる悪玉菌が増えて腸内腐敗が進むと吹き出物が多くなるとは言われていますが、便をちょろちょろと洗っただけで美肌が得られるなんてそんな安直な話があるわけがないと考えるのが普通だと思うのですが。そして、出ました、アトピーの改善とダイエット効果です。アトピーの改善に至ってはこれは不当広告(誇大広告、不実の告知にあたるのでしょうか)だと確実にいえますし、ダイエット効果があるとすれば、便が出たぶんだけ体重が軽くなるというだけのことだと言うしかありません。

医学的根拠はなく、消費生活センターか保健所に報告したら是正勧告が入るのではないかと思われます。ところが、なかなか世の中はうまくできているようで、これらの文言の広告は野放し状態です。ヒポクラテスの誓いを持ち出すまでもなく、医学の道を志した者のやるべきことではありません。

総論でも述べましたが、便秘の治療に関してはある程度の効果はあるかと思われるので目くじらを立てるわけではないのですが、それがいかにも美容や全身の健康に役立つように書くのは、医学に携わるものとして恥ずかしくないのかと思います。この元の文章の元ネタ(数箇所のものを1つにしました)を掲げているクリニックの先生については私も個人的に存じ上げており、世の中を渡っていくのは苦手なのかもしれないけれど真面目な先生だな、と思っていただけに、いったい何が起こってこうなったのか、と愕然としてしまいました。世知辛いのは世の中のほうなのかもしれませんが。

最後は、私が今回調べていて一番びっくりしたサイトです。なんと一般のクリニックが糞便移植を自由診療で行っていました。

「腸内フローラ移植は、腸内細菌の崩れてしまったバランスを整えるために、健康な人の腸内フローラを移植する方法です。現在国内で臨床治験中です。便ドナーバンクから厳選した複数人の腸内細菌をブレンドし、独自の生成方法で菌の生着率や生着時間を飛躍的に向上させた、腸内フローラ○○○○研究会と業務提携し腸内フローラ移植を提供しております。」

もうどこからどうつっこんでいいのかわからなくなるほど脱力感を催す文章です。

・なぜ「崩れてしまった腸内細菌のバランス」と既に決め付けてしまっているのか?

・便ドナーバンクは厚生労働省認可では作られていない。勝手にそんなドナーバンクを作ってはいけません。

・なぜ複数人のものを混ぜるかが意味不明です。混ぜたらどの検体に効果があったのかわからなくなってしまい、非科学的です。糞便移植を、複数種類の細菌の投与で置き換えようという試みは為されており、そちらの方が安全性は高いと思われますが、複数人の便を混ぜるメリットは全く見出せません。人数が増えた分だけ未知の感染症のリスクが増します。

・「独自の生成方法で菌の生着率や生着時間を飛躍的に向上」とありますがそんな技術があったらとっくに保険収載されて世の中の役に立っているはずです。だいたいにして生着するかどうかは既に移植されるヒトの腸内IgAによって取捨選択されるわけですからそれを変える方法は理論上ありません。

・「腸内フローラ○○○○研究会」というのがまた脱力するような研究会でありまして。ウェブサイトを見る限り、糞便移植をやってみたいという医師、及びパラメディカルの方々の集まりで、腸内フローラの専門研究者は私の知る限りいませんでした。

・何より、この糞便移植、6回コースですが、自費診療費用が税込み17万円です。

更に、日本及び世界において行われている医療行為としての糞便移植においては大腸内視鏡を使って大腸の一番奥に移植するか、その代わりに口からカプセルで、もしくは鼻から小腸まで通した管を通して移植することによって何とか広く大腸にいきわたるように工夫しているのに対して、このクリニックというかこのグループは非常に簡単に浣腸のような方法でお尻からゴムチューブで糞便を流し込みます。

ペンタサやステロイドなどの潰瘍性大腸炎に用いられる注腸療法を行っている医者であれば、常識で考えていくら頑張ってゴムチューブでお尻から流し込んでも、その後ごろごろと身体の向きを変えたりして患者さんにがんばってもらっても、せいぜい下行結腸付近、つまり大腸の半分ぐらいまでしか液体は届かないことがわかっています。糞便移植も同様にほぼ液体であろうと考えられるので、大腸の半分、しかもお尻に近いところに糞便を移植してきてもすぐに排便として出てしまうであろうことは想像に難くありません。なぜ大腸内視鏡を行う手間を惜しむのか。大腸内視鏡のように痛みを伴う行為によって移植することは患者さんが忌避すると思ったからなのか、大腸内視鏡を手技的に安定して施行できないのか。いずれにせよ自由診療においては人気が出ないことは経済効率から言ってできない、ということなのであろうと推察しますが、そのようないい加減な方法で糞便移植の効果が挙がっただとか効かなかっただとか議論すること自体が間違っていると断罪するほかにありません。

これを自由診療だからといって野放しにしておいてよいのでしょうか。同じ医者の端くれとして心が痛むというよりも憤りを覚えます。糞便移植については、いくら広告をうってもそんなに希望者がいるとは思えないですし、自然に正しい知識が世の中にいきわたるようになってこのような似非移植というべき治療は淘汰されていくものであると期待するしかないのでしょうか。

どのような食生活が腸内フローラによい影響を及ぼすのか

さて、痩せることなど特定の目標を置かずに、腸内フローラを「良いとされる」状態に導くにはどのような食事がよいのでしょうか?これは一般的な正解というものは恐らく存在せず、個人個人の腸内フローラに合う食事というものがあるはずです。

ただ、一般論としていわゆる善玉菌を増やして腸内での腐敗反応などがおきにくい状況を作るにはどうすればよいのかという方法論はあると思われます。それにはとりもなおさず日本人伝統的な和食中心の生活がよいのではないかと言われています。味噌、醤油、納豆、漬物などの発酵食品は、日本人固有の腸内フローラを形成したことからもわかる通り腸内でよい働きをすることがわかっています。漬物の乳酸菌(ラブレ株は漬物から発見された乳酸菌で例外的に胃酸に強いとのことです)などは胃酸でほとんど死滅してしまうのですが、その破片が腸まで落ちてきて他の菌の栄養源になったり免疫反応のスイッチを入れる働きがあったりすることもわかってきていますので、多種多様な発酵食品をとることは有用だと考えられます。何よりこれらの菌は、母親から受け継いでいる自らの腸内フローラを構成している菌で、はじかれずに定着する可能性が高いと推測されます。おふくろの味はあなたの腸内フローラにとっても好ましい食事だったのです。

また、根菜や海藻などを摂ることは腸内フローラを形成する多くの善玉菌の栄養であるオリゴ糖や水溶性食物繊維をとることになります。キノコやイモ類も良いと言われています。結局のところ、四季折々のものを頂く、和の食事の精神が結果として「上等な」腸内フローラを作り上げるのだと思われます。

また、ヨーグルトも同様の理由で乳酸菌・ビフィズス菌主体のものが主流で効果があることがわかっています。各社の研究の成果で、腸まで届きやすい乳酸菌入りのものも発売されています(ラブレ株やカゼイシロタ株など)。腸まで届いても定着できるかどうかは個人の腸内環境によるのでなんとも言えませんが、毎日摂食を続けて2週間ほどたって効果が実感できれば定着した(可能性がある、もしくは個人的な腸内環境に合致している)と言ってよいのではないかというのが一般的な考え方です。

菌たちのエサとなる食物繊維やオリゴ糖などを食事に取り入れるという面では、外食産業での食事だとやや難しくなりそうです。発酵食品が取り入れられることは(ヨーグルトなどは使われるでしょうけれども)少ない傾向にあると思われ、何よりも食物繊維が不足するのは避けられないことが統計からわかっています。外食やいわゆる中食をなるべく控えることも重要な要素であると言われています。摂るとすれば豆類や海藻類の入ったサラダなどを食べるのがよいと思われます。

食事ではありませんが、抗菌薬(いわゆる抗生物質)の使用は現代では避けられないものですが、腸内フローラに与える影響は甚大だということがわかっています。

どうしてもウイルス性の風邪(である以上、細菌をたたく抗菌薬は効かないのですが)でも、予防的に肺炎などに進行しないように、という名目で抗菌薬を処方してしまう傾向に現代医療は向かってきてしまいました。その(飲まなくてもよかったかもしれない)抗菌薬によって普段から育て上げた腸内フローラがぼろぼろになってしまうのは悲しむべきことです。とは言うものの、抗菌薬が本当に必要な状況なのか、念のために処方されたものなのかを判定する術がない以上、内服した方がよいと思われるので、自衛としては風邪などをなるべくひかないように腸内フローラだけではなく、口腔内やのどのケア、手洗いなどをして感染予防をしていくしかないと思われます。

ここまでに何度か名前が出てきたシンバイオティクスという考え方も近年有力視されています。これは従来の生きた善玉菌を摂取する「プロバイオティクス」に加えて「プレバイオティクス」の考え方を合わせて取り組んでいく考え方です。

どちらもよく耳にするような言葉ですが、内容は全く異なり、「プロバイオティクス」が腸内フローラを整えて健康維持に役立つ生きた微生物、つまり乳酸菌やビフィズス菌のことを指すのに対して、「プレバイオティクス」はこれらの細菌に栄養を与えるもの、つまり水溶性食物繊維やオリゴ糖などのことを指します。これらはどちらも腸内フローラを豊かに保つために重要な役割を持っています。そして、この2つを同時に摂取することこそがシンバイオティクスなのです。この方法はいわゆるヤセ菌優位の多様な腸内フローラを作ると言われているだけではなく、腸炎や重度熱傷などの水分バランスが崩れた状態の患者さんに効果があるという報告があります。

先ほどから水溶性食物繊維と言っていますが、食物繊維は(水に)不溶性のものもあり、穀物やイモ類、根菜(ごぼう、にんじん等)に多く含まれています。対してプレバイオティクスに用いる水溶性食物繊維は海藻類(こんぶ、わかめ、のり、もずく、ひじき等)に多く含まれているとされています。不溶性の食物繊維も便を押し出すためのボリュームアップの効果を持っているのでバランスよく食べることが重要だと思われます。

オリゴ糖にはガラクトオリゴ糖(母乳に含まれ乳児の腸内フローラビフィズス菌大増殖に関わっています)やフラクトオリゴ糖(たまねぎ、アスパラガス、はちみつ等)、キシロオリゴ糖(たけのこ、とうもろこし等)ほか数種類ありますが、特に難消化性のキシロオリゴ糖のビフィズス菌増殖効果は強いと言われています。

健康に良い食事、というのは科学的検証が難しいことから、医師の目からみるとやや信仰じみたものを感じてしまいます(玄米信仰、ヨーグルト信仰など)が、個々のところでみていくと、白米よりは食物繊維はじめ様々な微量元素やGABAを含む玄米の方がよいだろうな、とかスナック菓子を食べるくらいならヨーグルトを(とりあえず銘柄は問わず)食べた方がよいだろうな、とは思います。検証できないだけで、身体によいことは良いはずだ、と筆者は考えています。医者と栄養士さんは病院では仲が悪いことが多いのですが、この点は一致するのではないかと思います。

そこで、敢えて一歩踏み込んで、腸内フローラの多様性を保ち病原性のある細菌が入り込めなくするような食事メニューを考えてみました(医者は一般的に栄養学を軽視しがちですし、食事メニューまで考えるということはやり過ぎなのかもしれませんが、このような試みも必要かもしれないと思ってのことです)。ご笑覧下さい。

ある「大腸をいたわりたい」中年男性の一日の模範的食生活例

朝食:納豆ご飯(ご飯は玄米ならなお良し)、とうふの味噌汁、きんぴらごぼう、ヨーグルト(お好きな銘柄、できれば自分の腸に合った銘柄のものにはちみつをかけて)

昼食(忙しいのでコンビニで買ってきた設定):全粒粉のパン、海藻と豆の入ったサラダ、野菜ジュース

夕食:ひよこ豆のたっぷり入ったカレーライス、ラッシー(飲むヨーグルトでもよいです)

メニューにはいれられませんでしたが、漬物はぜひ常備して日常的に食べるのが望ましいでしょうし、りんごなどの果物も(できれば朝に)摂りたいものです。オクラやめかぶなどのネバネバした食べ物も腸によいとされています。

毎日毎日こんな精進料理のような食事は難しいと思いますので、「なんだか腸の調子が悪いな」と思ったら、このような食事を少し取り入れてみるといつのまにか調子が良くなっていることに気づくことでしょう。

ただ、無理にこの食事にはめこんで食べる必要はありません。食べたいものを食べる、特に旬のものをおいしく頂くことが非常に良いことだと思われます。偏ってしまわない程度に好きなものを、上のメニューを何らかの手がかりにして、おいしいものを毎日頂きましょう。

腸内フローラの未来

腸内フローラについては数十年前には考えもしなかったほど解析されてきており、様々な展開が考えられます。まず間違いないのは、前述したようにクロストリジウム・ディフィシル腸炎についての糞便移植は、日本でも遠からず一般に行われるようになるであろうことです(日本でも薬剤耐性の細菌感染は問題となっています)。

日本ではまだ症例数が少ないことから糞便移植についてはご家族からの移植(心理的にもこの方がなんとなく受け入れやすい気がします)となっていますが、大規模にやるとなると糞便バンクを作らざるを得ません。献血と同じように健康で既知の感染症について問題のないものを貯蔵しておくわけです(未知の感染症についての問題は残ります)。これはいずれ厚生労働省主導ででも進めて頂かなければいけない問題と思われます。いくつかの細菌の組み合わせで糞便に代用する試みがうまくいけば解決できると期待しています。

ヤセ菌が思わぬ展開を見せる可能性もあります。今のところはバクテロイデス門をターゲットにして腸内フローラを変えようという試みをしていますが、クリステンセネラセエの新たな特徴が見つかって誰の腸内にでも安全に定着できるようになって痩身効果が得られるとしたら、メタボリックシンドロームや糖尿病について福音になる可能性はあるので、是非研究が進んでほしいと思う分野です。

がんとの関連については、少なくとも大腸がんと腸内フローラ(もしくはその中の特定の細菌)がどうも関連があるように筆者には(もちろんいくつかの根拠はあるのですが)思われます。ただ、これは決定打となる根拠がみつかっていないので今後の研究が進んでほしいと切に願います。大腸がんは早期発見できれば完治できる可能性の高いがんです。それだけに、リスク因子が見つかって、その因子を持つ人に重点的に検診を行えれば大腸がん死亡率は劇的に下がるのではないかと思われます。日本人の大腸がんの増加はとどまるところを知らないので、治療の充実もさることながら、病因(腸内細菌?)からみた予防の段階でブレークスルーがあると素晴らしいことだと思います。

他のがんについては複合的な要因が多すぎて、腸内フローラとダイレクトに結びつく可能性は厳しいかとも思いますが、アリアケ菌の研究が何らかの道筋をつけてくれるかもしれません。リーキーガットがここで関わってくるかもしれません。

脳腸相関、特に自閉症と腸内フローラは関係がありそうに見えるのですが、やはり遺伝的因子が強いのかもしれないと個人的には考えています。マウスレベルではうまくいく治療がヒトではうまくいかないというのはしばしば経験される事で、自閉症マウスの糞便移植がうまくいったのは自閉症に相関するマウスの遺伝子が均質だった可能性があります。「Common ground仮説」のような機序で腸内フローラは脇役のような存在なのではと感じます。

腸内フローラと他の体内細菌叢との関連ですが、口腔内細菌と腸内フローラの関係は特に深く関係しているようです。現代では逆流性食道炎やGERD(胃食道逆流症)に対して強力な制酸剤を多用する傾向にあります。そうすると胃内で胃酸にやられていたはずの細菌も腸内フローラまでたどりつくということが起こりやすくなるとのことで、思わぬ細菌が腸炎を起こす時代が来る可能性もあります。また、腸内フローラが加齢による変化だけではなく口腔内細菌による変化を受けることも念頭に置かなければいけないともいえます。

逆に考えると、胃酸を強力に抑えたうえで、特定の細菌を経口摂取することによって腸内フローラに定着させることができるようになる可能性もあります。口腔内には大腸と同じぐらいの細菌が存在し、それは胃で殺菌されて相当数減って、その後十二指腸から小腸を経てじわじわと増えていき大腸では腸内フローラを作るほどに増えるという分布をしています。口腔内の細菌が多いということはそこに介入できれば直接に果実を得られるので何らかのブレークスルーがあれば腸内フローラ改変の可能性の1つだと思います。

また、2018年に入って、特定の栄養源によって増殖する菌を栄養源の投与をON-OFFすることによって体内の菌量を調節できるという論文もでてきており、その意義や安全性といったものはさておき、人為的に腸内フローラを劇的に変化させることができる可能性もほのかにみえてきました。これは確実性が高そうな方法であるだけに、腸内フローラを改変することのリスクとメリットについて十分検討したうえでヒトに応用できるとよいと思います。

最後に、これは将来的な検討になりますが、個人によって異なる腸内フローラのプロファイルを可能な限り現在より詳しく解析して、何らかの問題点があればそこに(腸内フローラ全体までは変えないとしても)介入をして健康に問題が生じるのを未然に防ぐということができれば理想的だと思われます。いわば腸内フローラのオーダーメイド治療です。

IgAによる定着の選別や、腸内フローラにはじかれるという問題がなかなか解決しがたい問題として壁になるでしょうけれど、「特定の栄養源」を利用したり、制酸剤で胃酸をすり抜けたり、アイディア次第で細菌をデリバリーして特定の栄養源で増やすことは技術的には可能になると思います。

腸内フローラを改変させることはリスクも伴うと思われるので慎重な検討と治験が必要だと思われますが、腸内フローラを自分の思い通りに改変するというのは夢のある話です。また、これらの方法が確立されれば、Big dataを利用してAIにフローラ解析と問題点の指摘、その時点でとりうる介入の方法、必要な菌種と栄養源など包括的に解析できる時代が来るかもしれません。

現在進んでいる腸内フローラをはじめとする人体の細菌叢は膨大すぎて人の手には余るものでした。その解析をAIが行ってくれるのであれば、医学とAIの幸せな融合になると考えます。AIはヒトを幸せにするとは限りませんが、AIが腸内フローラを調整してくれることによって様々な病気が予防され、がんが減り、スタイルの良い紳士淑女が街を闊歩するようになるのであれば、それはAIがヒトを幸せにする一例になるかもしれません。

腸内フローラは、宇宙や深海と同じく、人類にとってほとんど未知の領域です。AIの力を借りてそのフロンティアを切り開いていくのが21世紀の腸内フローラ研究なのかもしれません。その研究の果実はいつか私たちにもたらされることでしょう。期待しつつ気長に待つことと致しましょう。

腸内フローラは広大ですので。

– – – – – – 監修医師 相澤宏樹

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