腸内フローラとは

腸内フローラの驚くべき働き

腸内フローラという言葉がよく知られるようになってきました。腸内細菌叢ともいい、その言葉が示す通り、腸内に定着している細菌の集まりをお花畑(フローラ)に例えて表したものです。

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では、腸内フローラはどんな働きをして人の体にどんな影響をもたらしているのでしょうか。もしかしたら、あなたが悩んでいること、心配に思っていることが、腸内フローラを改善することで解決するかもしれません。

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遺伝子レベルの検査技術や検査機器の進歩で、その秘めたる力が次々に明らかになってきているのです。最新の研究成果を踏まえ、人と共存する細菌たちの働きをご紹介しましょう。

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腸内フローラとは

人の腸内には数百種類、あるいは数千種類ともいわれる腸内細菌が100兆個以上住んでおり、その重さは1kgを超えます。

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人は腸内細菌をまず母親から受け継ぎ、その後、食べ物や環境などの影響を受けて、徐々にバランスの取れた細菌叢をつくり上げていきます。細菌叢はその人独特のものですが、人種や食事、ライフスタイルなどによって大きく異なります。

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腸内細菌は大きく善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分けられます。乳酸菌やビフィズス菌に代表される善玉菌は人の体にいい影響を与え、悪玉菌は有害物質を出して体調悪化の原因になります。日和見菌はどっちつかずで、善玉菌が優勢になれば善玉菌に加勢し、悪玉菌が優勢になれば悪玉菌のような働きをします。ただ、特に日和見菌に関しては、まだ多くが未解明のままです。

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では、悪玉菌はない方がいいのかというと、そうではありません。腸内細菌はお互いが陣取り合戦をしており、悪玉菌がなければ善玉菌の活動は低下してしまいます。善玉菌2~3割、悪玉菌1割、日和見菌6~7割がちょうどいいバランスとされています。

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要は、バランスが重要なのです。このバランスが崩れて悪玉菌の勢力が強まったとき、さまざまな病気の引き金になったり精神的な不調をきたしたりするのです。したがって、最近では主に善玉菌をバランス調整菌、悪玉菌をバランスかく乱菌、日和見菌を能力未知菌と分類する言葉も生まれています。

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腸内細菌叢の活躍を、①腸管運動の調節②お肌の改善③免疫系の調節④消化吸収の補助⑤有害物質の分解⑥人がつくれない栄養素の供給の6点に絞って紹介していきます。

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肥満と腸内細菌

腸内細菌が肥満に関係するという研究結果は、世界各地で報告されています。代表的なものを紹介しましょう。

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  • アメリカの生物学者は、同じように育てた無菌マウスに、肥満の人とやせ型の人の腸内細菌を移植する実験を実施。やせた人の腸内細菌を移植されたマウスに体重の変化は見られなかったが、肥満の人からの腸内細菌を移植されたマウスは脂肪量が増えて太った。ㅤㅤㅤㅤㅤ

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  • アメリカの別の研究チームは、便に多くの腸内細菌が含まれることに着目し、クロストリジウム・ディフィシルという菌によって下痢を繰り返す腸炎患者に対して、健康な人の便をこして腸に注入する糞便移植を実施。肥満の娘の腸内細菌を移植された母親が16カ月で15キロも体重が増加し、BMIも33にまでアップした。腸炎自体は治り、糞便移植の有効性が認められたとして、アメリカでは糞便移植が盛んに行われている。

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  • 2017年、ロンドン大学の研究チームは約1600人に対する平均9年間の追跡調査によって腸内細菌叢の構成を解析した結果を発表。体重が増加した群では細菌叢の多様性が少ないことが明らかになったとして、長期にわたる体重増加は、腸内細菌叢が多様性を失うためである可能性を示唆した。

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短鎖脂肪酸を出して肥満を防ぐバクテロイデス

腸内細菌は、それ自体よりも菌が出す物質が人の体にさまざまな影響を与えます。①の調査では、肥満マウスの腸内でバクテロイデスという種類の菌が減少していることが確認されました。バクテロイデスが産生するのは酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸です。

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短鎖脂肪酸は脂肪の吸収を抑えるとともにエネルギーの消費を進め、インスリンの分泌量を増やします。このため、肥満やメタボリックシンドロームを防ぐとともに、糖尿病のリスクを軽減する効果もあるとみられています。

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一方、肥満マウスにはファーミキューテスという種類の菌が増えていました。これは体重増やコレステロール、血糖値の上昇に関与しています。

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では、やせるためにはバクテロイデスを増やしファーミキューテスを減らせばいいのだと言いたいところですが、それほど単純なものではありません。2つとも単一の菌の名前ではなく、似た仲間同士を集めて分類した呼び方です。この種類の菌のうちどれが効果を発揮しているかはまだ突き止められていないのです。

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〝やせ菌〟!? クリステンセネラセエ

もう一つ興味深い研究結果を紹介しましょう。

アメリカの別の研究チームは約400組の双子を調査し、やせている方にはクリステンセネラセエという菌が多くいることを発見。マウスの腸にクリステンセネラセエを移植するとマウスがやせるという結果を得ました。クリステンセネラセエも短鎖脂肪酸を生み出すとみられ、これで「やせ菌」として注目を集めるようになりました。

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さまざまな研究成果は、腸内細菌の乱れが肥満につながることを示していますが、腸内細菌をコントロールする主役は食事です。アメリカの研究者は、完全な動物性食品から完全な植物性食品に変えたら、たった1日で腸内細菌叢が変化すると報告しています。特に発酵食品や食物繊維は善玉菌を増やします。

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アメリカの大手製薬会社が腸内細菌の研究をすすめていますから、いつか画期的な「やせ薬」が出てくるかもしれませんが、やはりバランスの取れた食事と適度な運動は欠かせないようです。

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美肌と腸内細菌

多くの女性が悩むシミやしわなどのお肌の老化。これにも腸内細菌は大きくかかわっています。

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肌荒れ招く便秘は腸内細菌の仕業

その一つが便秘です。腸内細菌には腸のぜん動運動をコントロールする働きがあります。腸内細菌のバランスが崩れるとぜん動運動が低下し、便秘になりやすいのです。そして、便秘になると、腸内細菌が生み出すアンモニアや硫化水素などの有害物質が肌ににじみ出て、肌荒れなどを招くのです。

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ベルギーの調査チームが健康な女性を対象に便の硬さを調べたところ、便が硬いほど腸内細菌の多様性は減少し、軟らかい人の便は多様な菌がいるうえ、中でもプレボテラという菌が増えていることを発見しました。プレボテラは食物繊維を多くとると増えると言われており、食物繊維の効果で便が柔らかくなって便秘になりにくくするとみられています。

 

中国の研究チームはがんこな便秘の治療として大腸の一部を切除する手術を行いました。その結果、手術前に比べて手術後は、善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌が増え、便秘は解消したといいます。

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老化を防ぐエクオール

腸内細菌とお肌の関係でさらに注目されるのが、腸内細菌が生み出すエクオールです。

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藤田保健衛生大学の教授が女性90人にエクオール入りの錠剤を呑むグループと飲まないグループに分けて観察したところ、3カ月後、エクオール入りの錠剤をのんだグループは目じりのしわが浅くなっていました。

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このほか、エクオールによって骨密度が改善した、更年期障害が軽くなったという報告もあります。エクオールは、若々しい女性らしさをつくるエストロゲンという女性ホルモンに似た働きをします。エストロゲンは更年期になると急激に分泌量が減っていくのですが、エクオールがエストロゲンに代わって、お肌のハリを生むコラーゲンをつくり出すなどしているとみられます。

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エクオールは大豆イソフラボンを腸内細菌が分解することで生まれますので、大豆を多く摂るのがおすすめです。ただし、エクオールをつくり出す細菌を持っている人は40代で2人に1人といわれています。

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がんと腸内細菌

腸内細菌が発がん物質をつくることも分かっています。逆に、がん細胞の増殖を抑える物質をつくる腸内細菌があることも突き止められました。

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がん研究会有明病院では患者や健康診断に来た人の便を調べ、がんを引き起こす細菌を発見。「アリアケ菌」と名付けたこの菌が出すDCAという有害成分が老化を促進させて発がん性物質をまき散らすことが確認されています。

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東京大学の教授は前立腺がんを予防する働きがある菌を発見、ナッツ菌と名付けた。ヤクルト研究所の研究グループは、このナッツ菌が大豆イソフラボンからエクオールをつくり出すことを解明し。肌を若々しく保つエクオールが前立腺がんの増殖を抑えることが分かっています。

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肥満で増えるアリアケ菌ががんを引き起こす

アリアケ菌について、もう少し詳しく見ていきましょう。肥満になるとがんの発症リスクが高まることが指摘されていましたが、そのメカニズムにアリアケ菌とDCAが関与していることが、マウスによる実験で確認されました。

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肥満になるとなんらかの炎症が起きる→炎症を起こさせる情報伝達物質が細胞老化を進める→細胞老化を起こした細胞は発がんを促進する因子を分泌する→細胞老化を起こした細胞の周囲でがん化が進む――というのです。

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この実験では肝臓がんの発生が確認されたのですが、肥満マウスではアリアケ菌が増えて、これに伴いDCAが著しく増加。DCAが肝臓に運ばれて肝臓の一部で細胞老化を促進していたのです。

アリアケ菌は、肝臓がんだけでなく大腸がんや前立腺がんなどにも深く関与していることが明らかになっています。

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生活習慣病と腸内細菌

腸内細菌が関係する病気はがんだけではありません。糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病の予防が期待できる研究成果も報告されています。

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食物繊維が腸内細菌を育てる

アメリカのベンチャー企業が糖尿病医の協力を得て、食物繊維とポリフェノールを配合した薬を2週間、糖尿病患者に投与したところ、血糖を調節するインスリンの食後の分泌量が増えたことが判明。食物繊維によって腸内細菌が短鎖脂肪酸を生み、それによってインスリンが増えたと考えられる。

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アメリカのHazen教授らのグループが、心筋梗塞や脳卒中の患者の血液を分析したところ、心筋梗塞の患者では腸内細菌が生み出すTMA(トリメチルアミン)から合成されるTMAO(トリメチルアミンNオキシド)などが著しく高いことが判明。マウスを使った実験では、腸内細菌がいないとTMAOの値は上がらず、動脈硬化の悪化が認められなかった。

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腸内細菌が肥満を生むと先に述べましたが、肥満やメタボリックシンドロームは生活習慣病を招き、悪化させる大きな要因です。①のベンチャー企業は、腸内細菌の働きを利用した新しい糖尿病薬の研究に取り組んでおり、今後の研究で、生活習慣病に有効な新薬の開発が期待できるかもしれません。

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このほか、腸内細菌は認知症の一つであるアルツハイマー病やパーキンソン病などにも関係しているといられています。

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免疫疾患と腸内細菌

腸内細菌のバランスの崩れが免疫異常を招く

アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギーや、免疫細胞が自分の細胞を攻撃して発症する自己免疫疾患が増えています。一方で免疫に関する研究は飛躍的に進んでおり、がん治療においてもオプジーボのような「免疫チェックポイント阻害薬」が脚光を浴びています。

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免疫に大きくかかわっているのが腸内細菌です。人が持つ免疫細胞の7割が腸に存在しているからです。腸内の免疫細胞は、腸内に入ってくる病原菌などを撃退するだけでなく、腸内細菌が作り出す免疫細胞が血液に乗って全身に運ばれ、体全体の免疫効果を高めているのです。逆に、腸内細菌叢のバランスが崩れると免疫機能の異常を引き起こし、さまざまな病気の発症につながります。

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具体的には、以下のような研究結果が報告されています。

腸内に入ってきた異物を攻撃するリンパ球や抗体は無菌マウスでは少ないが、通常マウスからとった腸内細菌叢を移植すると正常化する。

免疫疾患の一つである関節リウマチのマウスで、腸内細胞が作り出す短鎖脂肪酸の一つ、酪酸の濃度を高めると関節炎の発症が抑えられる。

免疫チェックポイント阻害薬は、ビフィズス菌などによって腫瘍を抑制する効果が高まる。

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免疫細胞の暴走を抑えるTreg細胞

自己免疫疾患やアレルギーとの関係で注目されているのが、腸内細菌の一つ、クロストリジウム菌によってつくられるTreg細胞Tレグ細胞:制御性T細胞)です。自己免疫疾患もアレルギーも、通常なら無害な物質に対して免疫機構が過剰に反応することで起きるものですが、Treg細胞はこうした免疫細胞の〝暴走〟を抑えるのです。

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重症のアレルギーを発症したイギリスの女性アスリートや、自己免疫疾患の一つ、多発性硬化症の患者の便を調べたところ、いずれもクロストリジウム菌が減っていた。

Treg細胞は酪酸からつくられますが、マウスの実験から、食物繊維を多く与えるほどTreg細胞が増えることが判明。

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つまり、クロストリジウム菌がえさとする食物繊維が増えることでたくさんの酪酸を放出し、Treg細胞が増えるのです。

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心も支配する腸内細菌

腸は「第二の脳」と呼ばれています。腸の神経系は脳のそれとよく似ており、脳の指令がなくてもある程度自律的に働くことができるからです。また、脳と腸は、自律神経や免疫を通して非常に近い関係にあります。脳腸相関と呼ばれるこの関係においても、腸内細菌の関与に焦点を当てた研究が進んでいます。

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腸内細菌が性格や気持ちを左右する

九州大学の教授が無菌マウスを狭いチューブに閉じ込めたところ、普通のマウスより多くのストレスホルモンが出るが、事前にビフィズス菌を投与しておくとストレスホルモンの分泌量は通常のレベルにとどまりました。

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カナダの大学の研究で、臆病なマウスに大胆なマウスの腸内細菌を、大胆なマウスに臆病なマウスの腸内細菌をそれぞれ移植して高さ5センチの台に乗せ、降りるまでの時間を計測。臆病だったマウスはすぐに降りたのに、大胆だったマウスはなかなか降りてこなかったという結果が出ています。

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これにより、腸内細菌によって性格が変わったと結論付けました。

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イタリアの研究グループが自閉症の小児に健康な人の腸内細菌を移植したところ、自閉症児によくみられる腹痛や下痢などの消化器症状と行動障害について改善がみられた。

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腸内細菌が、ストレスを緩和し、気持ちの持ちようや性格まで変えるというのは驚きです。そこで働くのが、「ハッピーホルモン」と呼ばれるセロトニンです。セロトニンは神経を興奮させるノルアドレナリンや、快感を増幅するドーパミンの暴走を抑え、心のバランスを整えて幸せをかんじさせてくれます。

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セロトニンの90%は腸で生み出されています。セロトニンの合成には腸内細菌が深くかかわっており、腸内細菌のバランスが崩れると腸内のセロトニンが減るだけでなく、脳でつくられるセロトニンも減ってしまうのです。

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腸内細菌を整えるために

さまざまな研究成果をみてきましたが、紹介したのはごくわずかにすぎません。腸内細菌の研究に拍車がかかったのはここ数年、せいぜい10年ほどのことですが、世界ではさまざまなジャンルの研究者や専門医が、腸内細菌が人の体に及ぼす影響の解明に努めています。

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ここで紹介できなかったことを含め、腸内細菌の働きは以下のようにまとめられます。

・病原菌の侵入を防ぎ、有害物質を分解する

・腸管運動を調節して下痢や便秘を予防する

・食べたものの消化吸収を助ける

・必須アミノ酸やビタミン、ミネラルなど人がつくれない栄養素を供給する

・免疫機能を活性化、コントロールする

・食物繊維を分解して短鎖脂肪酸を生みだし、腸内細菌自体の活性化を促すとともにエネルギーを供給する

・神経系や大脳活動を調節する

・その一方で、悪玉菌が優位になると、いろいろな悪さをします。

・腸内の腐敗を進め、下痢や便秘、お肌の荒れや老化を招く

・発がん物質やアンモニア、硫化水素などの有害物質をつくる

・免疫力を低下させる

・慢性的な炎症を引き起こし、高血圧や動脈硬化など生活習慣病をはじめさまざまな病気の原因をつくる

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本文で紹介した実験結果や研究成果は、マウスの段階にとどまっていたり小規模でエビデンスに欠けたりしているものもあります。同じことが人にも普遍的に言えるかどうかは、今後の研究を待たなければいけないでしょう。

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しかし、研究は急ピッチで進んでいます。腸内細菌の働きを利用した新薬や新しい治療法が生み出されるのもそう遠くないとの期待を抱かせます。

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ただし、自分の健康を腸内細菌の働きにゆだねるというのは間違っています。重要なのは腸内細菌の多様性を保ちバランスを整えることですが、そのために欠かせないのが食事です。食物繊維や日本の食卓に古くからある発酵食品が腸にいいということはもはや常識です。

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ところが、食生活の変化で脂肪摂取量が増え、昔の日本人が持っていた有益な酵素や善玉菌が減ってきていることが分かっています。

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まずは食生活をはじめとした生活習慣の見直し。そして適度な運動をすることで、腸内細菌の働きを助けてあげるのが、宿主である私たちのすべきことであることを理解しましょう。

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– – – – – – 監修医師 相澤宏樹

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