潰瘍性大腸炎と、の原因となる腸内フローラの乱れを改善する健全フローラ注腸療法

潰瘍性大腸炎という難病があります。この病気は、すぐに命に危険を及ぼさないものの(←油断するとすぐ死に

ます:相澤)、再発を繰り返す厄介な難病です。

近年、腸内細菌に注目が集まっており、自己免疫的機序が病態の一部と考えられている潰瘍性大腸炎も、腸内細

菌の乱れが関係しているのではないかと考えられています。ここでは、潰瘍性大腸炎について学んだ後に、この

病気を健常者の腸内細菌を使って直すという新しい試みについて紹介します。

炎症性腸疾患とは

炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)とは、広義には小腸や大腸に急性あるいは慢性の炎症が発生

する病気ですが、炎症を起こす原因が特定できる病気と原因が不明な病気の2種類があります。前者には、細菌

感染(病原性大腸菌O-157やノロウイルスなど)による腸炎、一部の薬の副作用で起きる薬剤起因性腸炎、腸結

核、虚血性腸炎などがあります。後者は、潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)とクローン病(crohn’s

disease:CD)の2種類が代表的な病気(狭義の炎症成長疾患)です。

UCの炎症部位は大腸が中心ですが、CDは小腸末端部から大腸までがメインですが口腔から直腸までの全消化管

に炎症が広がる病気です。

どちらの病気も発症年齢が若く、とくにクローン病は10代から20代での発症が患者全体の70-80%にも達し

ます。ヨーロッパや北米の白人に多く日本人には少ない病気で、UCが人口10万人当たり1人、CDはそれよりも

少ない患者数です。いずれも難病に指定されています。(1)、(2)、(3)

1.1 UCの症状

UCでは、炎症部位が肛門縁直上の直腸から連続的にびまん性に大腸全体に広がるのが特徴です。粘膜のただれ

による腹痛、下痢、排便回数の増加、粘血便を特徴として、軽度~中等度~重度へと病状が進行するに従い、症

状も重症化していきます。重度になると、排便時以外にも下血を起こし、それによる貧血、発熱、体重減少や合

併症も起こります。合併症としては、腸管の狭窄や穿孔、巨大結腸症、がんなどの他、関節、皮膚、眼、口内、

胆道などの障害です。重度の炎症が回復しない場合には救命のために全大腸切除という大手術が必要になりま

す。(1)、(2)

1.2 UCとCDの原因

これらの病気は、昔から、遺伝的要因と環境的要因とが関わりあっているということが言われています。遺伝的

要因が関与していることは一卵性双生児において二卵性双生児よりも発症一致率(双子のどちらも発症する確

率)が高いことから関与が示唆されています。また、疾患感受性遺伝子も(発症に関与するとされている遺伝子

で、人種によって異なりますが)日本ではUCでHLAB51が、CDでTNFSF15などが発見されています。(ほんと

に遺伝子がないって文献に書いてありましたか? (2)→この文献は何ですか?:相澤)

環境的要因が関与していることは、東南アジアから英国への移民群で、東南アジア群よりも発症率が高いこと、

日本での短期間での罹患率の増加(食生活の欧米化の影響といわれています)が示唆しています。いずれにせよ

これが決定的に発症に影響しているという要因はみつかっていないのが現状です。

1.3 UCの治療

UCの治療は基本的には内科的な治療で行います。投薬によって腸の炎症をできるだけ抑えて寛解に持ち込み、

良い状態(寛解状態)をできるだけ長く維持することを目的とします。従って、完全治癒を目指す治療法とは言

えず、生涯にわたってつきあっていく病気です。一旦症状が治まっても再発の可能性が残ります。

内科的治療に使われる薬は以下のものです。

・5-ASA系

寛解維持にも、寛解導入(炎症がある状態から炎症を鎮めて寛解に持ち込む治療)にもどちらにも使われます。

大きくわけてSASPと5-ASAの2種があります。飲み薬以外にも座薬や注腸剤なども効果が高いといわれていま

す。

・ステロイド

かつては(現在も)再燃時の第一選択としてはステロイドを用いることが多いといえます。ステロイド薬の寛解

導入効果は強いのですが、再燃抑制効果はありません。症状の再発防止には疑問が残ります。(以上、(1)←ステ

ロイドのUC再燃抑制効果がないことは20年ぐらい前の研究でわかっています。文献に「疑問が残る」と書いて

あるのならかなり古い文献です:相澤)

・抗サイトメガロウイルス(CMV)薬

CMVは免疫系が正常な健常人ではとくに悪さをしませんが、免疫力が低下している人の腸内では、増殖して炎

症を起こします。UCの治療にステロイド剤や免疫抑制剤が多用されるため、CMV感染が起こり重症化しやすく

なります。このため、重度のUC患者やCMV感染を起こした患者に対しては抗CMV剤(ガンシクロビル)の投与

が検討されます。(4)

・免疫抑制剤

UCが免疫系の過剰反応で起こるとの考えに基づいて、免疫抑制剤が治療に使われることが多くなっています。

その効果は、ステロイド剤が効かない重度のUC患者の約7割に効果が認められたなど大きなものです。しか

し、長期投与が難しい問題や副作用などから、使い方も難しいといえます。(5)

・血球成分除去療法

UC患者では白血球の異常活性化が見られることから、異常な白血球(もしくは顆粒球と単球)を取り除き、そ

の血液を体内に戻すという人工透析に似た方法が行われています。この治療法は日本では発達していますが、医

療制度の問題もあり欧米では普及していないのが現状です。

・外科的治療

とくに重症で内科的な治療が無効な場合や、大量出血や腸の穿孔、中毒性巨大結腸症が起きた場合、あるいはが

ん(もしくは異形成)の可能性が考えられる場合には、炎症を起こしている患部ごと全大腸を切除する外科的な

処置が行われます。(以上、(2))

UCと腸内フローラ

2.1 腸内フローラとは

腸内フローラとは、人の腸内を埋め尽くしている細菌および微生物全体を表す言葉で、その種類は数100~数

1000種類、数は100~1000兆個、重さにすると1.5kg~2kgにもなります。これらの腸内細菌は、それぞれの種

類ごとに集まって植物のような群落(腸内細菌藪)を形成します。

腸内フローラは、細菌やウイルスのような外敵の体内への侵入防止や、免疫力の調節を通じた感染の防止など、

人が生きていく上で欠くことのできない重要な働きを担っています。

腸内フローラは、体にとって有用な善玉菌と有害な悪玉菌、そして、状況に応じて善玉菌としての働きも悪玉菌

としての働きもする日和見菌(ひよりみきん)の3種類に分けられます。腸内でのこれらの3種類の細菌の数の

割合は大まかに決まっており、悪玉菌は、加齢、ストレス、欧米型の食生活、あるいは抗菌薬の服用後に増える

と考えられています。

腸内フローラの構成バランスを健全な状態に保つことが健康維持にととってはとても大事です。

2.2 UCと腸内フローラの関係

無菌環境で飼育したマウスではUCが発症しないという報告に基づくと、UC発症には腸内細菌が密接に関係して

いることが推定されます。UC患者の腸内のビフィズス菌数が健常者の1/3から半分しかないという報告もあり

ます。(6)

これらの結果から、UCなどの患者では腸内フローラの構成バランスが崩れて善玉菌が大幅に減少している可能

性が大きいと考えられます。実際、UCやCDの患者では腸内フローラの構成が健常人と程度の差こそあれ異なっ

ていることもわかっています。

このため、善玉菌を含むサプリや食品(ヨーグルト)や善玉菌の餌になるオリゴ糖や食物繊維などを投与して、

腸内フローラバランスを正常化するという試みも行われています。しかし、腸内を埋め尽くす細菌の数と比べる

と、取り入れる善玉菌数が圧倒的に少なすぎて、UCのような重い病気に対しては十分な効果が見込めません。

それでは、善玉菌を直接患者の腸内に移植すればよいのではないかと思われますが、どの種類の細菌の組み合わ

せがどの病気に有効なのかが分かっていません。このため、健常人の腸内フローラ(糞便)全体をそのまま移植

して、腸内フローラをごっそり入れ替えるという健全フローラ注腸療法(Fecal Microbiota Transplantation

Therapy:FMT)が考案されました。

FMTによるUC治療の実例

以下、2003年、2013年、2017年に発表された3つの論文を参考にして、FMTを使ったUC治療の実例を紹介し

ます。

3.1 2003年の報告:

FMTの大きな成果が2003年に発表され、注目を浴びました。(7)

治験(新薬や新しい治療法の効果を確かめるための検査)の対象は25-53歳の男女3名ずつのUC患者です。全て

の治験参加者は、大腸内視鏡検査及び生検でUCに特徴的な腸の炎症を持つ患者です。また、5年以上UCを患っ

ており、その間に中~高用量のステロイドと抗炎症剤での治療が行われましたが、服薬を中止するとすぐに病気

が再発する状態でした。

ドナーには、FMT治療前、少なくとも6週間抗生物質を使用しておらず、HIV、肝炎、EBウイルス、サイトメガ

ロウイルス、梅毒などに罹っていない健康な成人が選ばれました。

治療に先立ち、患者はクロストリジウム除菌の目的で7~10日間の抗生物質の投与を受けています。ドナーの

便200g~300gを患者に移植する治療を1日1回、5日間行い、その間は、移植された細菌の増殖のための高繊維

食を続けました。

全ての患者で、治療直後~治療後4-6週間の間に抗炎症治療を中止することができました。

また、どの患者でも、FMT治療後数日から1週間で症状が著しく改善し、1ヶ月~1ヶ月半で全ての投薬の中止に

至り、その後、寛解状態を維持できています。治療後10年以上経って、UCの痕跡すら見いだせないほどの回復

を示している患者も含まれています。

結果の解釈

UCは、腸内フローラに含まれる特定の細菌の異常増殖を原因とする可能性があります。もしそうであれば、UC

患者の腸内フローラを健常者のものとごっそり入れ替え、また、その原因菌の再増殖を防ぐことができればUC

の発症を抑えられる(再発を抑えられる)ことになります。上記の結果は、この可能性を示すものです。

(クロストリジウム除菌目的の抗生物質投与が何らかの影響を与えている可能性にも言及していたような気がし

ます。また症例数が少ないことと、重症度が示されていないことから、いわゆる「何もしなくても自然に炎症が

燃え尽きる人」だった可能性もある、とこの論文のときは思った記憶があります:相澤)

ただし、UCの原因菌の同定にはまだ至っていません。可能性のある原因菌としては、フソバクテリウム、粘着

性大腸菌が考えられています。

UC患者と健常者の腸内細菌のDNAの網羅的な解析を行うことによって、近い将来、標的細菌の同定が可能とな

ることも考えられます。

3.2  2013年の報告 (8)

抗生物質を多用した結果、クロストリジウム菌が大腸内で異常増殖して腸に障害を引き起こすクロストリジウム

感染症は、欧米で高齢者の間に蔓延して大きな問題になっています。

このため、クロストリジウム感染症患者を対象としてFMT治療が試みられました。その効果は絶大で、これま

での治療法では20~30%の治癒率だったのに対して、この治療法を一回行った場合に81%、複数回行うと94%

もの治癒率を示したことが報告されました。

3.3  2017年の報告 (9)

FMTのUCへの有効性確認のための試験として、オーストラリアの3つの病院で二重盲検法を用いてFMTが実施

されました。二重盲検法とは、対象となる治療内容に関して、医師と患者の両方に伏せたまま実施する方法で

す。患者にだけ伏せて治療を行う単盲検法に比べて、医師の主観が入らないため、客観的な結果が得られやすい

利点があります。

対象となるUC患者を2つのグループに分け、それぞれの群について、1週間に5日間、8週間にわたり、糞便ある

いはプラセボの浣腸での移殖を行いました。プラセボとは、有効成分を含まない薬のことで、薬の効果を調べる

際に、実際の薬を投与する人との間での治療効果を比較するために使われるもので、偽薬とも言われます。

施術後8週間後に内視鏡観察を行い、全ての患者がステロイド薬の服用なしで寛解状態にあることが明らかにさ

れました。また、FMT処置後に、以前よりもフソバクテリウムを始めとする腸内フローラを構成する菌の種類

が増えたことが確認されました。

結果の解釈

FMTを行った結果UCの症状が大きく改善したことは、UC患者の腸内フローラに何らかの問題があったことを意

味します。腸内フローラ中の特定の細菌がUCの発症の引き金になっていることも考えられます。

(この論文はちゃんと読んでないので自信ないのですが、まず記載に症例数と重症度を書かないといけないと思

います。確か少数例だったような気がします。また「全ての患者が・・」と書くと対照群(偽薬群)でも寛解導

入されたということになってしまいますがそれで合ってましたか?:相澤)

3.4 結果の検討

以上の研究成果から、UCの発症に腸内フローラが関係していることが疑われます。ただし、腸内フローラの

うちのある1種類の細菌が特異的に関与するのか、あるいは、複数の原因菌があるのか、あるいは腸内フローラ

の構成内容が原因となっているのかは現在のところ不明です。

(おそらく複数の菌に対する免疫の過剰応答が腸管粘膜傷害を起こして発症に関与しているのではないかと現状

では考えられています:相澤)

日本でのFMT治療

日本でのFMT治療は、慶応大学医学部で初めて行われました(10) 。

この治療は、UCを始め、腸管型ベーチェット病、クロストリジウム感染症(難治性感染症)、過敏性腸症候群

患者45人を対象として、健常人(近親者)の便50g~300gを内視鏡先端部分から大腸内に導入する方法で行われ

ました。便はあらかじめ人体内の環境に近い生理食塩水と混ぜ、食物繊維などのごみを取り除くためにフィルタ

ーでろ過してから投与されました。

当面は、治療効果よりも安全性の確認主体の研究とされています。

また、2015年から順天堂大でも臨床試験が始まりました(11)。

この試験では、20歳以上のUC患者に対して、腸内フローラの内容が術前と術後で完全に変化することを期待し

て、事前に3種類の抗菌材を週間投与して腸内細菌の数を減らした上で行われました。中間報告によれば、移植

後1カ月で四分の三の患者で改善が認められたとされています。

このほか、滋賀大学医学部と千葉大学医学部でも、UCに対して同様の治験がH15年から開始されています。さ

らに、藤田保健衛生短期大学でも治験が開始され、移植後7年間程度の長期に渡る通院チェックを行い、施術後

の患者の状態のフォローアップを行うとしています。(12)

5. FMTの持つ問題点

(1)腸内フローラの全体像がまだ明らかになっていないことから、健康な腸内フローラというものの定

義が定まっていないという問題があります。すなわち、腸内フローラ構成要素として、どの菌種がどの程度含ま

れているのが健康な腸内フローラなのか、あるいはこれとは逆に、どの菌種がどの程度含まれていると不健康な

腸内フローラなのかということが明確になっていないということです。

(2)仮に、ドナーの腸内フローラが「健康な腸内フローラ」の範疇に入るとしても、そこに一部の有害菌が含

まれていて、それがレシピエントの腸内で問題を起こす可能性があります。この危険性をできるだけ排除するた

めに、FMT治療に先立って、ドナーの腸内をできるだけ「健康な腸内フローラ」で満たせるような処置を行

い、腸内環境の似ている親族をドナーに選ぶことが現在行われています。

(3)また、輸血や血液製剤で問題になったように、「現在の医学では発見できていない感染症」をFMTによ

って感染させてしまう可能性がありえます。これについては防ぐ手立てがないので患者さんへの十分な説明と同

意のもとで施行するしかないものと考えられます。

まとめ

腸内フローラを構成する細菌の種類や数は人によって異なり、また、一人の人の中でも体調によって変化しま

す。ただ、人の体質ごとに腸内フローラのタイプ分けができるとの考えもあります。この問題に関しては、現

在、研究が行われているところです。

将来、腸内フローラの微生物プロファイルが作られ、病気ごと、体質ごと、年齢ごとなどの最適なテーラーメイ

ドの治療方法と、FMT治療に際してのドナーとレシピエントの最適な組み合わせが提示できるようになること

が期待されます。

抗菌剤治療法

順天堂大学医学部の大草敏史先生たちと協力して臨床研究をすすめています。大草先生らは腸内細菌、とくにフ

ソバクテリウムを標的とした抗菌剤多剤併用療法の研究を続けておられました。

そして05年から全国の14の大学・病院が共同してUC患者210人を対象に、抗菌剤と偽薬を使った比較試験

を始めました。

この結果、抗菌剤3種をあわせて投与された人は、3カ月目で偽薬より症状も、内視鏡検査の結果も改善してい

たのです。ステロイド剤の減量や中止に至る。

(順天堂の大草先生の元々行っていた抗菌剤多剤併用というのはATM療法と呼ばれるもので、厚労省班会議の

標準治療に採用されるには至りませんでしたが、ある特定の症状やプロファイルの患者にはよく効いていまし

た。よって、ATMとFMTを同時に行うと、元々ある程度ATM療法が効いていたからFMTも効果を上乗せできて

いるのではないかという議論になってきます。効いているのだからそれでよい、という話もありますが、厳密性

を求めるのはこれからだと思います。:相澤)

蠕虫感染症

アニサキス症やエキノコックス症を引き起こす寄生虫の線虫や条虫の仲間であるヒト鞭虫(Trichuris

trichiura)の卵を飲むことによって、IBD(CU)の症状が劇的に改善すという例が報告されています。

http://stm.sciencemag.org/content/2/60/60ra88

その要因として、腸の炎症を抑えるインターロイキン22を分泌する細胞が増加していたとされます。

この治療法については、NHKテレビがサイエンスZERO「寄生生物が世界を変える!」で取り上げています。

(これは、理屈上もThという大きな免疫のバランスを傾けることになるので確かに効くかもしれないなと思い

ました。しかし、寄生虫感染は思わぬ重い合併症を起こすこともありますし、倫理的になかなか難しいと思われ

ます。:相澤)

– – – – – – 監修医師 相澤宏樹

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