自律神経失調症の治し方【薬物治療と生活療法】

自律神経失調症とは?

【自律神経失調症とは?】

概要

この名称は、多くの方が耳にしたことがあるのではないかと思います。自律神経失調症とは 自律神経のバランスが崩れる事により、肉体的・精神的にも様々な症状をもたらす「病気」というよりは「状態」を指しています。

現在ではうつ病、抑うつ状態、人格障害や発達障害の一部などと診断されるべき精神疾患の一群についても、かつては自律神経失調症という病名をつけて(本人と家族を安心させて)治療をしていた時代もあったとも聞きます。

近年ではそのように不完全な診断の病名をつけることは少なくなったのでかつてより自律神経失調症と診断されるべき領域はかなり狭くなったものと言えます。

自律神経は次の項でも示しますが、私たちが意識しなくとも勝手に働いてくれる神経なのです。日常の業務によるストレス、ハードワークにより十分な休息が とれないなど、生活環境や食生活などの生活習慣に関連して、そのバランスが崩れてしまう事が発症の原因となります。

また、心の病(新型うつ病等)にかかってしまう事で、自律神経のバランスが崩れてしまう事もあります。それ故に、休日になるとその症状が嘘のように楽になるというケースもあり、明らかに日常のストレスに反応して発症している事が認められれば「自律神経失調症」の疑いが濃厚になります。

この他、女性ホルモンの乱れによる影響でも自律神経の乱れをきたしやすく、更年期の女性にも発症しやすい事も特徴の一つです。「内臓系の検査で診断しても、体に悪いところや異常は認められない」というのが自律神経失調症の大きな特徴です。

そもそも自律神経とは?

自律神経は、相反する二種類の神経(交感神経・副交感神経)に分類されます。交感神経および副交感神経の両方を合わせて「自律神経」と呼んでいます。

交感神経は、緊張状態の時に優位となり、反対に副交感神経は睡眠中や、リラックスした状態の時に優位となります。この二種類の神経は、お互いに相反する関係性で作用し、また 自分の意思でコントロールすることが出来ません。

交感神経

交感神経は脊髄の外側から腹部を巡り 脊髄両脇の交感神経幹に入ります。その後は、各臓器など全身に分布し、情報を伝達しています。主な働きとして、筋肉の緊張、心拍や呼吸を早くする、脂肪を燃やしてエネルギーにすること等があります。交感神経が活発になると、外で活動するのに適した体の状態に調節してくれるのです。

副交感神経

副交感神経は、中脳・延髄・脊髄の下部から、身体の中に入ります。主な働きとして、筋肉の弛緩、消化の働きの促進、脂肪分の蓄積、心拍や呼吸を落ち着かせる等があります。副交感神経は、体を健全な状態に維持する為の内部活動を行っており、蓄積された疲労の回復をしてくれます。

私たちが無意識に呼吸をしたり、食べたものを消化したり、また体温を調節する為に発汗するのは、自律神経の働きによるものです。人は目が覚めると、交感神経が活発になり様々な活動をする事ができます。活発な活動を行うほど、交感神経はより全身に血流を送る指令を促し、血圧も上昇します。また、精神状態を興奮させ、逆に消化器系では排尿や排便を抑制する働きをします。睡眠中は副交感神経が優位となり、呼吸は落ち着き脈拍もゆっくりしたものになります。この他、睡眠中では消化を促進するため、胃の蠕動運動は活発になります。

この2つの神経系は、一日の中で状況に応じて優位性が変化し、常に支えあいながら機能している事が重要であり、どちらか一方の神経が過剰に活発な状態が続くと、次の項に示すような様々な症状が起きてしまいます。

日常のストレスの蓄積や、様々な生活環境からの影響によりいらいらしたり肉体的にも様々な異常を感じた場合、自律神経が乱れたサインかもしれません。

主な症状

人によって症状は様々であり、体質によっても目立つ症状が変わってきます。身体的な症状として、頭痛や動悸・息切れ、また 眩暈や倦怠感、腹痛・下痢 および便秘。他にも、体のしびれや発汗、排尿時の違和感(頻尿や残尿感)など。精神的な主な症状としては、気力や集中力の低下、また感情面での不安定などが現れます。

また、症状は一つだけでない事の方が多く、「会社へ出勤ができない」、「家事ができない」、「外出できない」という状態になり、家の中に引きこもりがちになりやすくなります。

検査と診断

実際に検査を受診したい場合、多くの方が 心療内科や神経外科等の どの分野で行ってもらうか迷ってしまいます。一般的な自律神経失調症の身体的に現れる現象をもとに、例えば 内科を受診しても異常がないと言われ、我慢し続けた結果、症状が進行してしまいがちです。

また、混同されやすい疾患も多く、心身症や神経症あるいはうつ病などとも間違われやすいケースがあります。どの科を受診したら良いか、迷う場合には発症している主に気になっている症状をもとに決定することが望ましいです。

具体的には、頭痛やめまいの症状があるとすれば脳神経外科や神経内科を受診するなどし、そこでの検査により、異常なしの診断が下されるのであれば心療内科を受診してみます。 はじめから精神的に不安や気力の低下などの症状が強く表れているのであれば、心療内科や精神科を受診されるのもよいと思われます。

自律神経失調症は、発症する様々な症状やストレスとなっている原因、生活環境や生活習慣を分析し、自律神経の機能状態を検査によって評価する事により 診断します。しかし、上記のように混同されやすい疾患との鑑別が必要な場合、例えば血液検査を行うなどして評価することもあります。

日本心身医学会では、自律神経失調症を「種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害の無いもの」と定義しています。

すなわち、自律神経の症状と認められ、検査により身体的な異常が認められず、精神障害も見られない事。これを満たす状態の場合、「自律神経失調症」と診断される事になります。

しかしながら、実際には症状が曖昧としていて暫定的に自律神経失調症と診断されるケースも少なくありません。また、社会的なイメージが他の精神疾患よりも悪くない事から、本来は別の精神疾患であるにも関わらず自律神経失調症としている事もあります。

自律神経失調症と診断された場合には、まず日常の生活環境を見直し、改善する事が重要です。日々の業務が多忙により 睡眠時間を多く摂取出来ない場合は 職場の上司に掛け合い、仕事量の見直しをしてもらうなど、周辺の方々の協力も不可欠な事が多々あります。時間に余裕を持つことができれば、睡眠のほか 適度に運動を行ってホルモンバランスを整えることも可能になります。

併せて、自律神経を調節してくれる処方薬や、ビタミン剤・ホルモン剤、また漢方薬の中にも治療・改善をサポートしてくれるものがありますので、かかりつけの医師の指導のもと 積極的に相談し、試してみる事をお勧めします。

【自律神経失調症の治し方_原因を明確にする】

概要でも触れましたが、日常のハードワークや睡眠不足、生活習慣の乱れにより 自律神経のバランスが崩れ、これが様々な症状をもたらす原因となります。カウンセリングなどでは、ストレス度チェックシートを用いて現状を把握する事で 原因の究明を行う事があります。大別すると以下の3つの具体的な要因が 挙げられます。

精神的なストレス

私たち現代人は、日常生活の中で様々なストレスにさらされながら日々を過ごしています。会社に出勤する会社員だけでなく、毎日の家事や育児を担当する 主婦の方も例外ではありません。新しい職場で慣れない仕事を行う、あがり症の人が大きな会議の場でプレゼンテーションを行うなど、また 大人だけでなく子供でも性格的に頑張り屋さんな方はストレスが溜まりやすい事が分かっています。

とにかく日常には多くのストレスがあふれています。このうち、精神的なストレスに分類されるものとして、不安・恐怖・焦り・怒り・恨みや憎しみによるものがあります。こういったストレスに対する反応として自律神経の一つである「交感神経」が活発になり脳神経は興奮し、呼吸は早く、そして荒くなるのです。この状態が長く続くと、当然体力を消耗し疲労となります。また、興奮状態が長く続くわけですから、不眠や頭痛を引き起こしたり。これらは、普通は緊張する要因が終われば収まっていきます。しかし、これが例えば何も緊張するような要因がないにも関わらず、家でゆっくりしている時にも起こったりするようであれば、自律神経の調節障害が考えられます。

身体的なストレス

精神的な要因から発生するストレスとは別に、身体の痛みや疲れからくるストレス、また生理的な欲求からくるストレスは、「身体的なストレス」と呼ばれています。分かりやすく代表的な身体的ストレスを挙げるとすれば、体が活動限界を感じた時に感じる疲労を「生理的疲労」といいますが、これは脳から筋肉や運動系の神経に 休息させる目的で疲労信号を送っているのです。しかし、この信号に気付かないまま活動を続けると、体の活動限界を超えてしまう結果、本来 筋肉だけに送っていた休息信号を自律神経にも送ってしまい、眩暈を引き起こしたりするのです。これらも、精神的なストレスの要因とは異なりますが、結果的に自律神経に悪い作用をもたらし自律神経失調症の原因となり得るのです。

不規則な生活習慣

上記、2つのストレス要因とは別に、不規則な生活習慣が影響している場合があります。これも大きく分けると、体内リズムの乱れと食生活からくるものがあります。体内リズムは体内時計とも呼ばれており、主に太陽光の影響を強く受けて体が調節しています。朝遅い時間まで睡眠を摂っていると太陽光を浴びるタイミングがずれてしまい、交感神経・副交感神経が優位となる時間の制御が乱れてしまう事で自律神経失調症を引き起こしやくなってしまいます。また、夜間に勤務を行う形態の職業では 睡眠が日中となってしまう事が避けられず体内リズムが乱れる原因となります。

この他、人は朝食を摂る事によっても体内リズムの調節を行っているといわれています。毎日、朝日を浴びて朝食を摂る事によって、体内リズムがリセットされ生活習慣の改善につながると共に、ひいては自律神経の調節機能を回復する事に関係してくるのです。

【自律神経失調症の治し方_薬物治療】

医師から処方される薬による治療方法です。自律神経失調症では、様々な症状が発現しますので 一人一人に合わせた薬の処方が行われます。また、東洋医学や西洋医学でも全く異なる薬を処方されますが、基本的には大まかに分けますと、以下の3つの目的で使用されています。

①ストレスを抑制する。

②頭痛などの症状を和らげる。

③うつ状態や不安状態を改善する。

ビタミン剤

ビタミン系の薬剤は、基本的に 神経系の働きを整えてくれますが、強いストレスによって消費されてしまい、不足した場合には自律神経のバランスが乱れやすく なります。なお、ビタミンCは水溶性なので 適量を数回に分けて摂取すると効果的です。

漢方薬

症状によっても処方される漢方薬は変わります。交感神経の興奮を抑える為、「抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)」や「酸棗仁湯(サンソウニントウ)」などが処方される事があります。

中でも「酸棗仁湯」は精神を安定させる効果があり、不眠等の治療にも用いられている漢方薬です。

自律神経調整薬

自律神経調整薬は、脳の視床下部というところに作用し、自律神経系のコントロ-ル機能の調整をしてくれます。また、不安を抑制し、ストレスの軽減も期待できる等、症状改善に役立ちます。顆粒や細粒状のものもあります。

抗不安剤, 抗うつ剤

こちらも症状によりますが、精神的症状がつらい場合などで一時的に抗不安剤や抗うつ剤を処方される事があります。神経伝達物質のやりとりを薬によってコントロールし、不安やうつ症状の抑制を促してくれます。気持ちを落ち着かせてくれる薬です。

【自律神経失調症の治し方_原因別の適切なアプローチ】

本人の内面的な要因(性格面・体質など)、また生活環境から受ける影響 (不規則・外的ストレス)による要因が考えられる為、その原因ごとに対処方法を考えます。

考え方を変える_精神的ストレス

人間は十人十色ですので、体の弱い部分も 人それぞれです。さらに体質の影響も密接に関わってきますから、「自律神経失調症」という診断をされた場合、何かとてつもなく凶悪な病名に感じてしまうかもしれませんが、この病気はあまり深刻に考え過ぎないことが大切です。そもそも「自律神経失調症」自体が精神医学的な正式な診断病名ではないのです。例えば 少し食欲がない、だるい、いらいらするなど、誰にでも起こりうる症状なのです。

ただ、長期間に渡り対処しないでいると深刻化してしまう可能性がありますので、おかしいなと感じたら一人で悩まず、受診される事が望ましいです。

カウンセリングなどの心理療法_精神的ストレス

どのように自律神経が働いているか、カウンセリングを通して ストレス源を見つけ出し、対処・除去していき症状の改善を図る方法です。カウンセリングによっては、日常の生活リズムの整え方や、生活指導だけでなくストレスに強くなる為の考え方の見直しや訓練指導なども行う事があります。

自律神経失調症の原因は多岐にわたる事が多く、複合していたり複雑に絡み合って見つけ出しづらいケースなどはカウンセリング期間も長くなります。また、担当する医師によっても その考え方の違いや対処方法も異なるため、自分に合った主治医を見つける事が治療への近道となります。わずかずつでも快方に向かっていると感じる事が出来れば、継続してカウンセリングを行う方が良いでしょう。

ストレスのかかる環境から脱却_精神的ストレス

慢性的なストレス状態では、自律神経失調症の改善の余地が狭められてしまいます。交感神経と副交感神経のバランスをリセットするうえで、根本的なストレス環境の見直しは重要です。自分一人で悩まず、身の周りの方に協力を仰ぎましょう。

疲労の除去_肉体的ストレス

自律神経失調症は、ほとんどの場合 交感神経が活発に活動してしまう事で起こります。この過剰な神経活動を抑制する為には、心身ともにリラックスする 事が大事ですので、ゆっくりとした(あくまでも激しくない程度の)運動や体操あるいはヨガやストレッチを行う、またアロマや音楽鑑賞、入浴などによる肉体的・精神的に蓄積してしまった疲労の除去が有効です。

他にもご自分がリラックスできる方法があれば いろいろと試してみることをお勧めします。楽しいと思える時間、心から充実感を得られる瞬間を大切にして下さい。

体温の管理_肉体的ストレス

人間は暑い時や運動をする事で、発汗して体温調節を行う機能が備わって  います。この汗をかく為の汗腺は、交感神経が支配しています。夏場、エアコンが効いた寒いぐらいの室内から猛暑の屋外に出る事などは、交感神経の乱れに悪影響を及ぼします。

1年を通して適切な室温管理をする事は、自律神経を正常に保つためにも必要な要素となります。

定時に行う1日3食_生活習慣

規則正しい生活習慣は、薬物療法以上に有効な治療方法です。毎日決まった時間に3度の食事を摂る事で、人間が本来もっている体内時計(リズム)を整える事が出来ます。

中でも朝食を規則正しく摂るという事は、1日の体内時計のリセットに欠かせません。これは体内時計と深く関係する自律神経のバランスを調節するうえで大切な事です。

【まとめ】

自律神経失調症について、原因や症状について記してきましたが実際のところ、「なんとなくだるい・・・」といった軽い症状を感じ始めた時に、自律神経失調症を疑うのは容易い事ではありません。いつもと体調が違ってふさぎこむような心持ちを自覚したら心療内科を受診してみる事も必要です。お腹の調子が悪いといった症状が出た時も、消化器内科等で検査し、異常なしの診断をされた場合は、日頃の生活を振り返って 生活習慣が乱れてきていないか、ストレスの多い環境に身を置いていないかを探してみる事です。そして、少しでも思い当たる節があるのであれば、自律神経失調症を疑ってみる事です。

現代社会は、一昔前に比べて目まぐるしく働く環境も変わってきています。そんな社会の中で、様々なストレスを受ける環境で生活する私たちにとっては実は身近な病気なのです。

– – – – – – 監修医師 相澤宏樹

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